朝来たときには晴れ渡っていた空も、お昼過ぎには厚い雲がかかり始めていた。
雨降ったらいやだな、傘持ってきてないし。置き傘もないし。
そんな願いもむなしく。
うわ、雨降ってきた
放課後。
5時間目くらいから降り出した雨はしっかりと路面を濡らしていて、絶えることなく雨音を響かせている。
さすがに傘なしで帰る勇気は出なかった。
家までは歩いて10分の距離。近くもなく遠くもなく。
クラスの子が夕方には止むらしいと話していた。
今日は暇だし、止むまで待って帰ろうかな。それか弱くなったときに走って帰ろう。
下駄箱に行って靴を履き替える。邪魔にならなそうなところに移動してケータイを弄って時間つぶし。
暇な時はケータイ弄ってればいくらでも時間つぶしができるからいい。
「お前、何してるんだ?」
「あ、どうも…。今日傘持ってきてなくて。弱くなるまで雨宿りしてます」
最近見慣れてきた金髪の先輩が近づいてきたと思ったら、平和島先輩だった。
ぼーっと立っている理由を話せば、呆れたように溜息をつかれた。
そんなにあからさまな溜息つかなくても。
「いつ弱くなるかなんて分かんないだろ」
「クラスの子が、夕方くらいには止むって言ってたんで、大丈夫ですよ。暇ですし」
「……送ってく」
「え、いや、いいですよ。悪いですし」
「大丈夫だ。俺も暇だし」
「でも…」
「じゃあ、今度昼メシんときに、コーヒーでも買ってくれればいいから」
「…すみません。ありがとうございます」
平和島先輩の傘は大きめの黒い傘だった。
校舎を出て歩き出す。
道路では車道側に立ってくれるし、傘を私よりに差してくれる。
平和島先輩は本当に優しい人だって、思った。なんだか嬉しかった。
今まではクラスの中で異端な外見のせいで、男子にからかわれることはあっても、こんな優しさを向けられたことはなかった。
平和島先輩の噂は嘘なんじゃないかってくらい、穏やかな時間が流れてる。
道の案内以外は基本的に無言。だけど沈黙が気まずいわけじゃない。
ああ、落ち着くなあ。
「えっと、ここです。このマンション」
「そうか。じゃあ、また」
「ありがとうございました。すごく助かりました」
「おう」
平和島先輩が踵を返した。
そういえば、わたし、自己紹介もしてない…!
「平和島先輩!私、って言います。明日、コーヒー持っていきますね!」
平和島先輩は、ちょっとだけ笑って、片手をあげて「じゃあな、」って言って帰って行った。
私は何だか途端に恥ずかしくなって、エントランスの鍵を急いで開けて、逃げるように家の中に駆け込んだ。
(何やってんだ、わたし)
20100521