10.お迎えにあがりました


もう、私がホグワーツを卒業してから3年が過ぎた。
数ヶ月前に、ジェームズから見るだけでため息が出るような手紙を貰い、元気な男の子が生まれたことを知った。
シリウスが名付け親になったことも書いてあり、2人揃って親バカな風景が目に浮かぶようだ。
名前はハリーと言うらしい。いつか会いに行きたいものだ。

私といえば、在学中から決めていた通り、薬問屋を営むことになった。
ダンブルドアの紹介もあり、ホグズミードのなかなかいい場所にお店が持てて、大満足。
お店の一室と自宅を繋いで、いつでも温室に行けるように細工をしている。
自宅にいるときにお店に来客があってもすぐに分かるようにしたし、その逆もまた然り。
いつまたひょっこりと彼が姿を現すかも分からないしね。

恋人であるセブルスとは、もう2年近く会っていない。
卒業するときに交わした、「いつか迎えに来る」というありきたりな約束は果たされる日が来るのだろうか。
果たされることなく彼がいなくなってしまうことだって、可能性は低くない。
それでも私はセブルスを待ち続け、常連のお客さんに半ば口説かれようとも一途に彼を想っている。

時々お店の前に置いてある手紙を見る限りは、それなりに生きて頑張っているみたい。
彼の手紙は2,3ヶ月に一遍、決まってお店の前のプランターの下に置いてある。
前々から思ってたけれど、本当にセブルスは几帳面で律儀だと思う。
絶対A型ね。





いつも通りに9時に外に出て、お店の看板をCLOSEDからOPENにひっくり返す。
ちょっと外に出ただけだったが、朝っぱらから何やら騒がしい。
深く気には留めずに、丁度切れていた薬瓶の在庫を補充しなきゃ、と
注文書を取りに自室に戻るとチリリリリン、とベルの音がした。
来客かしら。

「なぁんだ、預言者新聞か」

折角急いで出てきたのに。
ドアを開けてふくろうを中に招き入れる。
すると、ふくろうは新聞をカウンターに落として止まり木に止まった。
5クヌートをふくろうのポシェットに入れると、ふくろうはまるで「ありがとうございました」とでも
言うかのように、ひとつ大きくホーと鳴いて、開けっ放しのドアから飛び立っていった。

「・・・え?」

新聞の1面には、「ヴォルデモート敗れたり!」という大きな文字。
そして、もう見慣れてしまった、闇の印が打ちあがっている写真がでかでかと載っていた。
その記事の中に見慣れた名前を見つけて、固まった。

「リリーも、ジェームズも死んで、残ったのはハリーだけ・・・?
 ピーターはシリウスに殺されて、シリウスは現行犯逮捕でアズカバン・・・」

信じられない。

仲の良かった友人4人が、一晩のうちにいなくなってしまった。
この新聞に書いてあることは本当なのかしら?
リーマスは、どうしたのだろう。彼の安否が気になる。

ショックが大きかったのもあり、今日は店を仕舞うことにした。
こんな状態で接客業なんて、お客さんに失礼だわ。
それに、どうせ今日はみんな薬草どころじゃないだろう。
表に出て、ついさっきOPENにした看板をCLOSEDにひっくり返して鍵をかける。

闇の帝王がいなくなったということは、セブルスはどうなるのだろう?
そういえば、3ヶ月ほど前に手紙を貰ってからは何も連絡がないし。
まさか・・・。

嫌な予感に背筋を凍らせ、自室に戻り、落ち着くために紅茶を淹れるお湯を沸かし始めた。
と、そこへ、ふくろうがやってきたときと同じように、チリリリリン、とベルが鳴る。
CLOSEDって書いてあるじゃない!
余程の急ぎのお客さんなのかしら?

急いでお店に戻り、鍵を外してドアを開ける。

「ごめんなさい、今日は閉店なの。お急ぎ?」

早口で言ってから、お客さんの顔を見た。

「セブルス?」
「久しいな、
「・・・本物?」
「当たり前だろう」
「一方的に置手紙だけして帰っちゃうセブルス?」
「・・・棘があるな」
「返事をしようにもふくろうを使いに出しても戻ってきちゃうし」
「すまない」

セブルスの手が、ドアに掛かったままの私の手に伸びた。

「会いたかった・・・」
「私もだ」

視界が黒く染まる。
あぁ、このぬくもり。
10年以上も会っていなかったかのように感じる。
セブルスがちゃんと生きていた、このことが友人を一気に亡くしたショックを、
ほんの僅かだけれど和らげてくれた。

「気が利かなくてごめんね。中に入って。丁度お湯を沸かしてたところなの」
「ああ。悪いな」

中にセブルスを入れてから、またドアの鍵を閉める。

「随分と整理されてるな」
「もうお店を始めて3年だからね。最初の頃からすると格段の進歩よ。
 今じゃ、常連さんも付いてくれるようになったの。なかなかいい商売よ」
「そうか。私もこれから世話になることだろう」

そう言ってセブルスは、口角を上げて微笑んだ。
この微笑。彼の全てが懐かしい。

自宅への扉を開き、ソファに座らせると、セブルスは懐かしそうに周りを見回した。
やかんを火から下ろし、時間をかけてゆっくりと紅茶を淹れる。
カップをセブルスに差し出すと小さく「ありがとう」という声がした。
セブルスは一口紅茶に口を付けると、私の方に向き直った。

「お前に全てを話すときが来た」
「・・・ジェームズたちが死んだのは知ってるわ」
「私の仕事のことだ。  ・・・この1年間、私はダンブルドアの陣営にいた」
「え?」
「ずっと密偵をやっていたんだ。
 死喰い人でありながら、ダンブルドアに手を貸していた」
「大変だったのね」

私があっさり言うと、セブルスは軽く面食らったような表情になった。
そして鼻で笑うと、「お前は変わってないな」と言った。
そりゃぁ自宅とお店で引きこもってますからね!
20歳にしては大役だとは思うけれど、今こうしてここにセブルスがいるということは、
仕事を上手くこなしてきたということの証だろう。
私がセブルスに会っていなかった間の彼の苦悩を思うと、切ない気持ちになった。


セブルスは意を決したように、コホンと咳払いをすると、再び真面目な顔つきになった。

。3年越しの約束を果たそうと思う。
 闇の印は消えないし、私の手は穢れてしまったが・・・嫌でなければ・・・」

言いよどむセブルスの左手を、ぎゅっと握った。
私がセブルスに目を合わせて微笑むと、セブルスは憑き物が落ちたような表情をした。





「お前を迎えに来た。・・・結婚して欲しい」


「喜んで」





end... Thank you!!

2006/1/22 UP