が振り返ると、そこにいたのは一匹の一角獣――ユニコーンだった。 初めて見る一角獣にが立ちすくんでいると、その一角獣はゆったりとした歩みでに近づいてきた。 の目の前で立ち止まり、胸元に顔を摺り寄せる彼に、やっとの力が抜けた。 「こんばんわ、一角獣さん」 あまり大きくないだったが、はできる限り手を伸ばして一角獣のたてがみを撫でた。 すると彼はを袖口を引っ張る。こっちにこい、とでも言っているかのように。 「ついていけばいいの？」 一角獣につれられて数分歩くと、湖の畔に出た。ちょうどセブルスと離れたところの反対側だっただけなので、はセブルスと合流するのに不都合はなさそうだ、と一息ついた。 そのまま歩いていくと、湖を囲んでいる木々の中でひときわ大きな木の根元へと辿り着く。 彼はその根元を指し示すかのように斜め下を向いた。 が目をやると、そこにあったのは抜け落ちた一角獣の角。 「あなたの角？くれるの？」 屈んだの頬に彼が擦り寄る。 は彼のたてがみをひと撫でして、慎重に角を拾い上げ、薬草でいっぱいのかごの中に角をそっと置くと、はにっこりと笑い「ありがとう」と言った。 セブルスは目当ての薬草をある程度採取し終えると、と合流するべく湖の方へと歩みを進めた。しかしと別れた場所へ行っても、の姿はない。セブルスはひとつため息を吐くと、杖を取り出した。するとセブルスの杖はぼんやりとした光を放つ。その光はやがて収縮し、ひとつの光線になった。セブルスはその光の差すほうへ歩き出す。 「…ペンダントに魔法をかけていて正解だったな」 入学祝にに渡したペンダントに、セブルスは探知呪文をかけていた。万が一の時のことを考えて施した魔法だったが、こうも早く使うことになるとは、とセブルスは苦々しい顔をする。 別れた場所からそう遠くは離れていなかったので、セブルスはすぐにを見つけ出した。 そこにはユニコーンにもたれかかって寝ている。さすがのスネイプも、驚きに目を瞠った。 「禁じられた森でなんと無防備な…」 杖を懐にしまい、の肩を揺する。ユニコーンが非難する目を向けていたがセブルスは気にしなかった。何回か揺するが起きる気配がない。セブルスは諦めて、薬草の入ったかごを右腕にかけ、そのままを抱き上げる。すると威嚇しだすユニコーンにセブルスは極めて優しい声を出すよう努めながら、迎えにきただけだ、また会いにこさせよう、と言った。ユニコーンが引き下がると、セブルスは両腕に抱き上げたをそのままに、ホグワーツ城へ戻すために歩き出した。まるで赤ちゃん抱っこのような姿勢で、もしが起きていたら怒りそうな姿勢だったが、セブルスは重さを感じさせない足取りである。来たときと同じスピードで、すたすたと歩いていた。 「まったく、姫君はよくこんなところで熟睡できるものだ」 魔法を使わず悠々と歩くセブルス。その言葉と表情はちぐはぐで、セブルスの顔には慈しむような表情が浮かんでいた。 ←back | next→ 20120408