初めて乗った汽車に、は新しい生活の始まりを実感していた。
見知らぬ場所に、見知らぬ人。
人見知りはしない方ではあったが、やはり不安は不安であった。

――どこか空いている席はないかな…

空いているコンパートメントを探すが、どの席も人がいっぱいで座れそうにない。
そうこうしている間にどうやら汽車は出発したようだった。
たまたま目をやったコンパートメントに3人の男の子が座っていた。
他の埋まっているところに押しかけるよりも、頼んで座らせてもらおうかな――と考えたはコンコン、とノックをしてドアを開けた。

「ねぇ、席がないんだけど、一緒に座ってもいいかな?」
「いいかい」
「当然さ」
「ありがとう」

ニッコリと微笑むに一瞬釘付けになってから一人が慌ててお菓子をどけた。
どうやら、3人のうち2人は双子のようだった。
赤い髪にそばかす。顔のつくりからいたるところまで全てそっくり。


「君、何ていうの?僕はフレッド・ウィーズリー」
「そして僕がジョージ・ウィーズリー」
「「見ての通り双子さ!」」
「僕はリー・ジョーダン」
「私は、。今年入学なの」
「あぁ、僕たちもさ」
「同い年か」
「よろしくね。私のことはでいいわ」
「僕もリーでいいよ」
「僕たちもファーストネームで構わないよ。学校に行ったらウィーズリーがあと2人もいるからね!」


挨拶もそこそこに、話題はあっちへ行ったりこっちへ行ったりと楽しいひと時を過ごした。


「君はどの寮に入りたいんだい?」
「グリフィンドール!」
「「僕たちもさ!」」
「こいつらはお兄さん達もみんなグリフィンドールだったんだってさ!」
「私の両親も、育ての親も、その親友もみんなグリフィンドールだったんだって!…一人スリザリンだったみたいだけど」
「グリフィンドールとスリザリン?なかなかない組み合わせだな」
「仲良くしてたというか…父たちが一方的に構っていたというか…悪戯して遊んだり苛めてたみたい」


ハァ…と呆れたようにため息を吐いた。
親たちの仕出かしたことはリーマスから色々と聞いていた。
セブルスに少しの同情を感じ、彼の前では一切昔のことについては聞かないようにしていたし、実際魔法薬に夢中でそれどころではなかった。
『悪戯』という言葉に双子とリー・ジョーダンは酷く興味をもったようで、に話を聞かせて!と迫った。

「うーんとね…私は聞いただけだから正確じゃないと思うんだけど。
 例えば――彼が行く先々に先回りして糞爆弾を仕掛けておいたりする軽いものから、そうね、本当に酷いことまで――色々やったみたいだけど」
「いつかの父上に会ってみたいものだな、フレッド」
「そうだな、ジョージ」
「え?」
「こいつらは悪戯が大好きなんだってさ」
「じゃぁ3年生になったら『ゾンコの悪戯専門店』に通い詰めね」
「君は行ったことがあるの?」
「うん。数えるほどだけど」
「兄貴たちの話を聞くばっかりで――」
「――僕らはまだ行ったことがないのさ」


双子はわずかに項垂れた――ように見えたのだが、次の瞬間勢いよく顔を上げた。


「でもその代わり、自分達で作ってるんだ!」
「自分達で?」


リーはさも可笑しげな表情を作って2人を眺めていた。
が「どういうこと?」と聞くと、双子は嬉々として語り始めた。


「まだ構想段階で、まだまだ完成にはほど遠いんだけれど――」
「すごい!私のお父さんたちが聞いたらきっと感動するわよ!」
「ホグワーツを卒業するころには、色々発明している予定さ」


話に区切りが付いたところで、車内販売の魔女がやってきて、4人で大量にお菓子を買い溜めし、
友達ができるかとあんなに一人で心配していたのにホグワーツに着く頃にはすっかり仲良しの友達が出来て、はほっとしていた。










「――あぁ、もうお腹いっぱいだよ」
「本当だ。もう食べられない」
「僕はまだイケるけど」
「わたしもー」

車内販売で買ったお菓子をあらかた食べ終わって、双子は腹に手を当ててため息を吐いた。

「女の子は甘いものは別腹っていうもんね…」
「甘いものだったらいくらでも食べれると思うわ!」
「食べ過ぎると気持ち悪くなるよ?」

胸を張って言うに、リーは心配そうな表情を作ったけれど、はなぜか自信満々だった。
誰だってあの甘いもの好きの育て親と一緒に暮らしたら耐性ができる――と言おうとしたが、すんでのところで止めておいた。
あの壮絶な甘いものだらけのお茶会をあまり思い出したくはない。


「ホグワーツに着いたら真っ先に箒飛行の授業がやりたいな」
「むしろ早く2年生になってクイディッチの選手になりたいね」
「気が早いよお前ら」
「私は魔法薬学が楽しみー」
「「魔法薬学だって!?」」
まさに『あり得ないよ、君』な表情でを見つめる二人。
「うん」
「魔法薬学なんて最低らしいぜ」
「えー、何で?」
「僕らがグリフィンドールに入った暁には、魔法薬学の教授から減点の嵐を受けるに違いない」
「つまり魔法薬学の陰険教授は格好の悪戯の的ってことさ」
「……それ違うと思う…」

フレッドとジョージの話を要約すると、魔法薬学の教授はスリザリンの寮監で、スリザリンばかりを贔屓している。
特に嫌われているのがグリフィンドールで、彼らの兄のチャーリーはしょっちゅう減点を受けている――ということらしい。

確かにセブルスは贔屓する傾向があるみたいだけれど、そこまで酷いのだろうかとは疑問に思った。
実際、リーマスには冷たかったがには優しく接していたのでがそう思うのも無理はない。

「そんなに酷い先生だとは思わないんだけどなぁ…だって長年勤めてらっしゃるんでしょう、その先生」
「実際受けてみるまでは分からないけど、チャーリーがそう言うくらいだ――」
「――きっと僕らにとっては地獄の授業になるだろう」

そう言うと双子は恐ろしいものを見たときのようなげっそりとした表情でを見た。




「もうそろそろ着きそうだけれど着替えた方がいいんじゃないかなぁ」
「そうだな」
「じゃぁ私は備え付けのトイレで着替えてこようかな…。ごめんフレッド、上の取って?茶色の鞄」
「オーケィ。…ん?、今フレッドって言ったよね?」
「そうだよ、だってあなたはフレッドでしょ?」
「おおジョージ、なんてことだ!」
「ああフレッド、これは奇跡だろうか!」

双子は二人とも目を見開いて、そっくりな顔で同じ表情を作った。

「ねぇリー。私変なこと言った?」
「いいや、でも驚きだね。僕はどっちがどっちだか全くもって分からない」
「それって胸を張って言うことじゃないと思う…」

レイは自信満々に言うリーに呆れ顔を作ってから、双子の方を向く。
左を向いて指を差す。
「こっちがジョージ」
今度は右を向いて指を差す。
「で、こっちがフレッド。違う?」
「「正解さ!」」
「一発で当てられた君は素晴らしいよ」
「何たって僕らのママでさえ間違うんだからね!」
「まぁ!」
親でさえ見分けがつかないのだから、今日会ったばかりの赤の他人が見分けられるということは
彼らにとってはあり得ないことだったのだろう。…まだ驚愕の表情でいる。

「何では区別がつくんだろうか」
「僕らの顔にどこか違う所があるんだろうか」
二人が議論をしそうな勢いだったので、はフレッドの手から自分の荷物を引ったくり、
コンパートメントのドアの取っ手に手を掛けると、振り返って言った。


「あえて違うところを言うとしたら、雰囲気かしら」


そしてドアを開けてトイレに向かって歩き出した。
残された3人はきょとんとした表情を作っている。

「雰囲気だって?」
「曖昧だな」
って大物になりそうだな」
リーが呟いたこの言葉に双子はコクコク、と頷いた。



next

2005/12/18 UP  --2006/2/1 修正