研究室の中に入ると、中から薬草のにおいが漂ってきた。 はきっちり扉をしめたことを確認すると、立っているスネイプに横から抱きついた。 「いきなり何なのだ、一体」 「ただでさえ年にせいぜい2ヶ月しか会えないのに1年半も会えなかった鬱憤晴らしです、教授」 「……いいから腕を見せたまえ」 「え?」 「ウィーズリーの所為で火傷をしたのであろう?」 「み、見てたんだ…」 思いがけない言葉で乾いた笑いとともに、口元がヒクヒクと引き攣る。 スネイプは戸棚から瓶を取り出すと、の方に向き直った。 そしてレイのローブを捲くり、クリーム状の薬を火傷した部分に塗りつけて包帯を巻き、 薬をもとあった箇所に戻して、またの方を向いた。 「応急処置だ。あとでマダム・ポンフリーに見てもらうといい」 「はーい。セブルス手際いいねぇ」 「誰の所為だと…」 スネイプの処置の手際のよさは、の怪我を何回も見てきた慣れからきている。 昔は興味本位で薬の調合をよくしていた。本に載っているものから、未知のものまで色々な実験を。 当然、失敗することも少なくはなく、そういうときの手当ては大体スネイプの仕事だった。 「…会っていなかった間も勉強はちゃんとしていたのだろうな?」 「当然です!」 は勝手にソファに座り、自信満々に言った。 スネイプは魔法で紅茶を淹れる準備をしながらニヤリと口角を上げた。 「去年渡した本は読んだな?」 「もちろん」 「ポリジュース薬で最後から数えて3番目に入れる材料は何だ」 「二角獣の角の粉末…かな」 そしていくつかの問答をすると、「うむ、勉強してあるな」とスネイプは満足げに頷いた。 それを見ると、は紅茶をちびちびと飲みながら、快活に笑った。 「魔法薬学の勉強は好きだもん!面白いし」 「ルーピンの教える呪文学と防衛術よりも好きになっていただけたら我輩も言うこと無しなんだがな」 「えー、同じくらい好きじゃ、駄目?」 「可愛いこぶるな」 「ミスター・スネイプは名づけ子が可愛くないとおっしゃる…」 「…そんなことは言っていないだろうが」 「私に免じてリーマスとも仲良くしてよ」 「それとこれとは話が違う」 「共同作業で私の名前を付けてくれたくせに――」 「あれはアイツらが譲らないからだ!」 「ま、いいか。明日の予習するから戻るね。――紅茶ありがとう!」 ソファから立ち上がると、スネイプは思い出したようにを呼び止めた。 「なーに?」 スネイプは自分の机の引き出しから小ぶりの箱を呼び寄せると、に渡した。 「入学祝だ」 「いいの!?ありがとう、セブルス」 「また何かあったら――いや、いつでも来なさい」 「はーい!」 扉を開けて走っていったを見て、スネイプはため息を付いた。 「随分見ないうちに大きくなったものだな――」 図書館に着いたはお目当ての魔法薬学の本を探し出すと、窓際の席に座った。 早速、先ほどスネイプから受け取った箱を開けると、ネックレスが入っていた。 小ぶりの鎖にナッツほどの大きさのペンダントトップが付いている。 ペンダントトップはクリスタルの雫型で、窓からの光をキラキラと反射させていた。 早速つけてみるとペンダントトップが丁度ネクタイに隠れる。 きっと普段も付けていられるようなものを選んで買ったのだろう。 「クリスタルってお守りになるんだっけ」 ぼそっと独り言を呟くが、夕食前と言うこともあって、その呟きを耳にした人はいなかった。 は早速ネックレスを付けて、箱をポケットの中に大事にしまった。 これってわざわざアクセサリーショップで買ったのかな。 それとも通販かしら? もしアクセサリーショップで買ったのだったら面白いんだけどな、とは考えてから、読書に集中した。 夕食の時間になっても本を読み終えることはできなく、仕方なく本を借りていくことにした。 魔法薬学の本といっても、1年生向けではなく、上級者向けの内容のもの。 1年生のには一回で理解することは難しかった。 でも薬学には好奇心や探究心を引き寄せる要素がたくさんある。 数年先に授業でやるであろうものも、今から知ってて損はない。 ――嫌がらせに難しい質問をする教授もいることだし、とはスネイプの顔を思い出した。 午後の授業でフレッドやジョージに「分からない」と言わせたときの表情は、どこか嬉々としていた――ような気がした。 司書のマダム・ピンスの机まで行くと、彼女は何やら作業をしているようだった。 「マダム、この本を借りたいのですが」 「じゃぁここに、寮と学年、名前を書いて」 がおずおずと話しかけると、マダム・ピンスは勢いよく振り返って、はきはきと言った。 備え付けの羽ペンで、グリフィンドール――1年――・――と急いで書くと、 はマダム・ピンスにお礼を言い、小走りで大広間に向かった。 「お待たせー」 「「!」」 がジョージの隣に滑るように座り二人に声を掛けると、双子が飛び上がってに掴みかかった。 「何?何?どうしたの?」 訳が分からないはきょろきょろと2人の顔を見比べる。 「魔法薬学の授業のあと、チャーリーに話したんだ」 「がスネイプから授業で5点貰ったってね!」 「そしたらチャーリーは何て言ったと思うかい?」 「「『僕は今までスネイプから点を貰ったグリフィンドール生を見たことないよ!』だって!!」」 「ホントに?」 「あのパーシーでさえ、魔法薬学で点を貰ったことがないっていうんだ!」 いつものように代わりばんこに、声を揃えて言う双子の発言に、は目を丸くした。 いくらグリフィンドールが嫌いだからといって、6年間もグリフィンドールに加点しない先生などいるのだろうか――とは考えたが、 セブルスならやりかねないな、と思い直し軽くため息を吐いた。 そこでやっと、スネイプがに特例中の特例を施したことに気が付いた。 「うーんとね、二人にまだ言ってなかったんだけど、実は私……スネイプ先生とは昔からの知り合いなの。だからよ、きっと」 「「知り合い!?」」 「うん。小さい頃からの。知り合いというか、むしろ家族ね。血の繋がりはないけど」 「そうだったんだ…」 「驚きだ…」 「「あんな陰険教師とが知り合いだなんて…」」 「二人とも…!!」 親しい人を『陰険教師』と言われたのが腹立たしかったのか、 驚いて固まっている二人を横目に、は一人でさっさと夕食を食べ始めた。 (それでも否定しないあたり認めているのだろう) それを見て、立っていた二人もを挟むようにして席に着き、食べ始めた。 next 2006/1/3 UP --2006/2/1 修正 |