数分経ってから、は今朝方の約束を思い出してフレッドの方を向いた。

「そうだ、フレッド、今日の魔法史のノートを見せてくれない?」
「あー…」

フレッドがしかめっ面になり、歯切れの悪い返事が返ってきた。
黙ってしまったフレッドの代わりに、ジョージが返事をした。

「ごめん。実はあまりにつまらない授業なもんで、僕ら二人、両方とも寝ちゃったんだ」
「そっか。まぁいいや。きっと教科書以外のことはやってないよね」

あまりにあっさりとしたの言葉に、フレッドは申し訳なさそうな表情をした。

「大丈夫よ、授業中寝ることはよくあると思うし」
「ごめんよ」





が夕食をあらかた食べ終わり席を立つと、双子も慌てて掻き込んで席を立った。
「もういいの?」
「「む!」」

大広間を出て、歩きながらは二人に言った。
「急がなくてもよかったのに」
「だってどこかに行くんだろう?」
「まぁね」
「「どこに行くつもりなんだい?」」
「うーん…。他の人には言っちゃだめだよ」

双子が揃って聞くと、は立ち止まった。
図書館で借りた本をフレッドに持ってもらい、ポケットから羊皮紙を出した。
レイの言葉に双子は興味津々でレイの手元を見つめ、は二人に見えるように端と端を持って広げ、

「じゃじゃーん」

ありきたりな効果音を口にすると、双子は怪訝な顔をした。

「何だい?それ。何も書いてないけど」
「古い羊皮紙にしか見えないよ」
「私の育ての親から貰ったの。コレの名前は『忍びの地図』」
「「忍びの地図?」」
「そう。ホグワーツの地図なの。家で試せなかったから、早速試してみようと思って」
「面白そうだ!」
「早速やろう!」
「その前に荷物を部屋に置いてからね」

また大事そうに羊皮紙をしまい、フレッドから本を受け取ると、やや急ぎ足で寮に向かった。





談話室に着き、は二人を待たせて本を置きに部屋に入った。
本をベッドの上に投げ出すと、また談話室に向け、駆け足で急いだ。

「お待たせ!」
「「やっときた!」」
「…そんなに待たせてないでしょ?」

そしてフレッドとジョージに向かいあうように座り、羊皮紙を出した。

「じゃ、やるよ」
「「Yes,sir!」」

は杖を取り出して羊皮紙に向け、呟くように唱えた。






「われ、ここに誓う。われ、よからぬことをたくらむ者なり」






がそう唱えると、の杖先が当たっているところから、羊皮紙の上に線が広がっていく。
それはまるで、杖先を中心にして蜘蛛の巣が出来上がっていくようだ。
数秒後に羊皮紙の上に現れたのは、無数の足跡とホグワーツの地図だった。


「「「す…すごい…」」」


思わず3人ともため息を漏らしながら呟いた。
まだ夕食の時間が終わっていないせいか、大広間から寮に帰る生徒のの足跡が重なり、黒いしみが動いているように見えた。

「これがあれば夜中抜け出してフィルチに追いかけられることもないだろう!」
「悪戯を仕掛けているときに誰かに出くわすこともない!」
「上に何か書いてあるな…『悪戯仕掛人』?」

フレッドとジョージは、あからさまに興奮していて、頬が赤くなっていた。

「私の父たちが、自分たちのことを『悪戯仕掛人』って言ってたらしいけど」
「すげぇ!」
「じゃぁ、俺たちは――」
「「二代目悪戯仕掛人だな!!」」
「…きっと彼らも吃驚するわ、いつの間に二代目が…ってね」

二人のことを知ったときのリーマスの反応を思い浮かべて、は目を細めた。
きっと吃驚して固まるに違いない。もしかしたら笑い転げるかもしれない。

「「さっそく行動開始だ!ホグワーツの探検を…」」
「却下」

息づいた二人の言葉を遮って、は冷たく言った。
思ってもみなかった言葉が発せられて、凍りつく二人。

「どうしてだい?」
「こんなにいい物があるのに…」
「今日はこれから、予習をしなきゃいけないの」
「「予習!?」」
「それに二人も、魔法史を寝てたのなら尚更、予習はしなきゃいけないわ」

いきなり勉強のことを出したに、二人は素っ頓狂な声を出した。
しかし、にしてみれば今日出れなかった授業の分を取り返すためにも、予習は欠かせないものであった。 それなのにこれから探検だなんて、とんでもない話だった。
復習が出来ない分、予習を二倍に。はなかなかに勉強熱心なグリフィンドール生だった。



「だから探検は、また今度ね」



今度っていつだい…?と双子のウィーズリーは、揃って肩を落とした。
は、最初にしたのと同じように杖先をあて、「いたずら完了」と言って羊皮紙の文字を消し、ポケットにしまった。 そして、「私、予習したら寝るから!おやすみ!」と二人に声を掛け、ぱたぱたと部屋の中へ駆けていった。








翌日からは、授業のオリエンテーションも終わり授業の内容が本格化していった。
もう宿題の出る教科もあり、知識に貪欲なレイはますます生き生きとしてきていたが、
フレッドとジョージは、もう宿題なんか見たくない、とばかりにそっちのけで魔法のチェスをやっていた。
そこへ図書館から帰ってきたに気づいた二人は、チェスを一旦中断し、に駆け寄った。

「「掲示板を見たかい?」」
「いいえ?そう言えば見るのを忘れてたわ」
「明日は飛行術があるらしい」
「しかもスリザリンとの合同授業だ」
「ホントに?」

犬猿の仲のスリザリンとグリフィンドールを、初めての飛行術の授業で組ませてもいいものなのだろうか、とは目をぱちくりさせた。
聞いたところによると、スリザリンの3年生にグリフィンドールの1年生が絡まれたという話もあったし、
チャーリー曰く、クィディッチが始まると更に目に見えて酷くなるらしい。
がリーマスから聞いた話でも、グリフィンドールとスリザリンの仲が悪いのは昔かららしい。

「先生はグリフィンドールとスリザリンの仲が最悪なこと知ってるのかしらね」
「「全くだよ!」」

初めての飛行訓練は無事に終わるのだろうか――と、は授業が上手くいくのか不安になった。


話題が尽きたところで、フレッドとジョージは一人掛けソファに向かい合って座り、
先ほど中断した魔法のチェスの試合を再開させた。

「チェス得意なの?」
「まぁね」
「僕らの家で、まともに遊べるものといったら魔法のチェスくらいしかない」
「他のものは僕たちが壊してしまったものもあるし」
「何よりお金がないからね」
「それだけやったんなら、きっと強いのね」
「兄弟の中では下の弟のロンがなかなか強いんだけど――」
「「僕たちに勝つには10年早い!」」

声を合わせてにんまりと言う二人に、は果敢にもチェスの試合を申し込んだ。
だが結果的には0勝3敗という無残な結果に終わってしまい、ため息を吐いた。

「駄目だわ、もう二人にはチェスの試合を申し込まない」
「たまに教えてあげるよ!」
も上手くなったらみんなでチェスの総当たり戦でもやろうか」
「・・・二人ともチェスが好きなのね」



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2006/1/13 UP  --2006/2/1 修正