次の日の朝、は遠足前夜の小学生よろしく寝付けなかったため、ギリギリの時間で朝食を食べることになってしまった。 「一人部屋っていうのも起こしてくれる人がいないから考えようによっては不便ね」 「何言ってるんだい!」 「悪戯の作戦会議に使えるじゃないか!」 「あなた達女子寮の中に入ってくる気!?」 「「僕たち悪戯仕掛人に不可能はない!」」 「…頑張ってちょうだい」 「それより……髪くらい梳かしたらどうだい?折角の美人が台無しだよ」 ジョージが唇をへの字に曲げて言った。 今日のの髪型はまさしく寝起きで、背中の真ん中まであるストレートの長い髪がボサボサになっていた。 どうやらは自分の美にあまり頓着しない性格なようで、フレッドとジョージは嘆かわしいような視線を送ったが、 当のは「爆発してないだけましよ」と言って、朝食の残りを食べるのに専念した。 が校庭に着くと、そこには既に20本近くの箒が2列に並べられていた。 箒はみな使い古されたもので、節くれだっているものも多いし、ボロボロのものばかりだった。 「チャーリーが言ってたんだけど、学校の箒はクセがあるやつが多いんだってさ」 「クセ?」 「怖がりの箒とか」 「暴れだす箒とか」 「あれだけ古い箒なら仕方がない気もするけどね」 「・・・その箒に当たらないことを祈るわ。一種のくじ引きね」 「ハズレに当たった奴は散々だ!」 「もしかしたら箒から振り落とされるかもしれないしね!」 「あぁ・・・ハズレの箒に当たったらどうしよう・・・。怪我だけはしたくないわ」 がフレッドとジョージと喋っている間に、授業時間になったようで、 マダム・フーチがスタスタとすばやい身のこなしで校庭にやってきた。 「みんな、箒のそばに立って。ウィーズリー!早く位置に付きなさい」 マダム・フーチは二列に向かい合った生徒たちの間を行ったり来たりしながらガミガミと言った。 は箒の左に立つと、飛べるかどうかの不安でいっぱいになった。 「右手を箒の上に突き出して、『上がれ!』と言いなさい」 マダム・フーチが言うと、みんなが「上がれ!」と言って箒の柄を手の中に収めようとした。 は、「落ち着いて、大丈夫、」と心の中で自分を励まして、「上がれ!」と言った。 すると箒は、勢いよく飛び上がって、の手の中に収まった。 辺りを見回してみると、一回で箒が上がった生徒はを含めて4人だった。 他の生徒には2,3回で上がった人もいたし、何回言ってもなかなか上がらない人もいた。 「!凄いじゃないか」 「初めてなんだろう?」 「うん。良かった・・・でもフレッドもジョージも1回で出来てるじゃない」 「僕らはチャーリーとかの箒で遊んだことがあるからね」 「初めてってわけじゃないのさ!」 そこでマダム・フーチは大きな声で「箒にまたがりなさい!」と言い、 箒に跨った生徒の周りを歩いて、順々に箒の握り方を直していった。 もフレッドもジョージも直される事はなかったが、ずっと小声でおしゃべりをしていたために睨まれた。 だが懲りずに喋っていると、ついにマダム・フーチに「そこ!おしゃべりはやめなさい!」と怒鳴られてしまった。 「さぁ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、 2メートルくらい浮上したら、少し前かがみになってすぐに降りてきてください。 ではいいですね?―――1、2の、3!」 ピーッという笛の音で、みんな一斉に飛び上がった。 フレッドとジョージは思いっきり反動をつけて蹴ったため、5メートル近くまで上がってしまっていたが、 は先生に言われたとおり、きっかり2メートルの高さのところにいた。 もし高所恐怖症の箒に当たったらと思うと、それ以上高いところに行く気にもなれなかった。 ちゃんと飛ぶことが出来て――しかもそんなに酷くない箒だったので――は心底ほっとした。 そして、指示通りにまた地面に降り、他の生徒が地面に戻ってくるのを待ったが、 フレッドとジョージが空中でスリザリン生との口喧嘩を始めてしまい、 なかなか降りてこようとせずにマダム・フーチの手を煩わせていた。 しかもだんだんと野次馬の生徒が集まってきてしまったので、 仕方なくわざわざマダム・フーチが箒に乗って、二人はマダム・フーチに引っ張られて降りてきた。 地面に降りてきたときには、二人とも今にも相手のスリザリン生に殴りかかりそうな荒い息を吐いていて、 はフレッドとジョージを宥めるのにとても苦労した。 その後、無事に飛行訓練が終わり、話題は自然とクィディッチのことになった。 今週の土曜には今年度初めての寮対抗のクィディッチの試合――グリフィンドール対ハッフルパフ戦があるので、 フレッドとジョージに限らず、クィディッチ好きの生徒はどちらの寮が勝つかなどで盛り上がっていた。 「今週末はクィディッチだ!」 「あと3日!待ちきれない!」 「チャーリーはシーカーなのよね?」 「そうさ!クィディッチはめちゃくちゃ上手い。 でもチャーリーも言ってたけど、クィディッチ杯はグリフィンドールが取るのに、 なんで寮杯はスリザリンに取られてしまうんだろうな」 「きっとスリザリンの連中は『手段を選ばずに』点を稼いでいるんだろうさ!」 後半は何だかスリザリンの悪口のようになっていき、はむっと口を閉じた。 スリザリンが好きっていうわけじゃないけど、セブルスはスリザリンの寮監だもの。 セブルスは優しいし、尊敬に値する人だわ。悪い人だけじゃないのに・・・。 と、半ば呆れたように二人を見ると、既に話題は変わってしまっていた。 その後の夕食では、チャーリーも交えてクィディッチの話に花が咲いた。 何しろチャーリーは既に5年間、シーカーとしてチームに貢献してきたし、 クィディッチにかけては他の生徒に負けない実力を持っていた。 「何で1年生はクィディッチをやっちゃいけないのか分からないよ!」 「そりゃぁ、1年生は下手クソだからだろ?」 「「僕たちは下手クソじゃないよ!」」 「だから、許してしまったら下手な1年生が入ってしまうからでしょ?上手い人ばかりじゃないもの。 でもクィディッチは誰でもやりたいでしょう?だからそういう制限を加えてるんだと思うわ」 フレッドとジョージは早く来年が来ればいいのに!と拗ねている。 それを見てとチャーリーは苦笑いをした。 「はクィディッチは好きじゃないのかい?」 「試合を見るのは好きだけど、実際やるのとはまた違うでしょう? ブラッジャーをわざと選手に当てようとする人だっているじゃない? 荒々しいのは勘弁して欲しいわ」 そしては肩を竦めて、怪我はごめんだもの、とチャーリーに言った。 next 2006/1/24 UP --2006/2/1 修正 |