下腹部の痛みがしんどい。 あぁ、月のものが来てしまったか。 は静かに息を吐いた。 女であるがゆえに、避けられない運命。 子供を産む体である以上、月経だけは避けられないものだった。 そして、この月経の最初の2日間だけは、どうしても魔力が暴走しがちだった。 下腹部の痛みのリズムとともに、脈だつ魔力。 初経のときに、身体に秘める魔力を全て解放したは、 それから月経のときには魔力を抑えることを余儀なくされた。 しかし、決まった時期に月経が来ないこともあるため、 魔力を解放しかかってしまうことは、よくあることだった。 とにかく、朝食を食べなければ。 体力が落ちては更に酷いことになる、とはゆっくりと大広間に向かった。 「「、おはよう!」」 「あー…二人とも、おはよう」 談話室に降りると、いつものように、フレッドとジョージがレイのことを待っていた。 「どうしたんだい?」 「顔が真っ青だよ!」 「…女の子は色々と大変なんです」 普段とは違う、覇気のない表情のを見て、フレッドとジョージが駆け寄る。 暗に月経を指し示すことをが言うと、双子は心配そうにレイを見た。 「医務室に行かなくてもいいのかい?」 「大丈夫…病気じゃないんだから」 寮を出て、大広間に向かう途中の廊下でがふらつき、咄嗟にフレッドがレイを支えた。 「おい、、大丈夫かい?」 「息荒くなってるし…医務室に行ったほうが…」 「医務室に行っても仕方がないと思うんだけど…あー。何だか黒い影が…」 「「黒い影?」」 「「げ」」 思わず発せられた言葉の根源を睨みつけながら、セブルス・スネイプ教授がそこに立っていた。 「ミスター・ウィーズリーの無礼な発言により、グリフィンドール5点減点。 ミス・。来たまえ」 「ちょ、ちょっと待ってくださいね…。足元がおぼつかなくて…」 いつもの如く、冷たい声で減点を告げていくスネイプに、ジョージが食ってかかった。 「は具合が悪いんです!呼び出しなら後でにしてもらえませんか」 「ミスター・ジョージ・ウィーズリー。残念ながら彼女は医務室に行っても良くはならないだろう」 半ば意識の飛んでいるの腕をスネイプが掴むと、はこけてよろよろ、とスネイプの腕の中に入った。 「これはまた酷いな…」 誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、を魔法で浮かび上がらせた。 瞳孔を確認するために目を開かせると、普段は黒い瞳が金色に変色している。 スネイプは呆然としている双子のウィーズリーを放って足早に自室に向かった。 「、起きろ」 薬の入ったゴブレッドを片手に、スネイプはソファに横たわっているの肩を叩いて起こした。 金色の双眸がゆっくりと開かれる。 そして辺りを見渡し、スネイプの顔を見た。 黒髪に金色の瞳はどこか黒猫を思わせた。 「あれ…何でここに…」 「いいから、この薬を飲みたまえ」 「あー。いつもの?」 ゴブレッドの中身を見て途端に嫌な顔をするに、スネイプはの足元に膝を付いて説明を始めた。 「いつもより症状が酷いようだったので、魔力を安定させるとともに鎮痛もできるよう調合した。 早く飲んだ方がいい。少し熱いから気をつけろ」 早口で言うスネイプの顔が「飲まないなら強引にでも飲ませてやる」と言っているようで、は急いで飲み干した。 金色の瞳が暗くなっていき、普段の色に戻ったのを確認して、スネイプはの向かい側に腰を下ろした。 「いつもより苦い」 「仕方がなかろう。いつもの薬とは違うのだから」 まだ口の中に苦い味が残っていて、は渋い顔をした。 「しかし…いつもよりも酷そうだったな。何か変わったことは?」 「特にないけど…もしかしたら力が強くなってるのかもしれない」 力の解放とは、出すときも、抑えつけるときも、膨大な体力を消費する。 当然、解放する力の割合が多いほど、その体力は大きく消費される。 今日スネイプの調合した薬はその過程をなるべくゆっくりにして、安定させるための薬だった。 本来ならば、魔力を抑えるだけでいいのだが、一度解放しかかってしまったものを無理やり抑えつけることは、 この幼い体では耐え切れるものではなく、不可能に近かった。 「毎月このようなことがあっては授業に支障をきたすだろう。 だが年頃の女性ほど不規則になりがちだと聞く。 はじめの1日に解放して苦しい思いをするか、1週間ほど魔力を抑えるか… が決めなさい」 スネイプの言葉では考えこんだ。 1日授業に出ないのも、1週間変身術などの授業を見学するのも、同じくらい補習が厳しそうだ。 でも魔法史などの魔法を使わない授業もあるし、 魔法がまともに使えなかったとしても授業に出ていれば、その分理解も早まるだろう。 苦渋の選択で、1週間魔力を抑えることにしただったが、複雑な心境だった。 「あの薬を1週間分も余計に飲まなきゃいけないんだ…」 「道具で制御するにははまだ幼いからな」 「今になって家がいかにいい環境だったかが分かったわ…集団生活って大変ね」 が脱力すると、スネイプは苦笑いをした。 少なからず、家では――家の別荘とはいえ――の負担を軽減させるような結界が貼ってあった。 今回は結界の外に出た反動もあるのかもしれない。一度ダンブルドアに報告しなければ。 スネイプはそう考えてから、視線をに向けた。 「午前中はここでゆっくりしているといい。午後には大分良くなるだろう。本でも読んでいなさい」 「はーい」 それから2,3時間経った頃、唐突にが話し出した。 「ねぇセブルス、お父さんってどんな人だったの?」 「いきなりどうしたのだ…」 スネイプがに顔を向けると、は視線を本に向けたままだった。 「だって、娘がこんなに苦しい思いをしてるのに、お父さんは行方不明のままでしょ? 私に構ってられないだけかもしれないけれど・・・やっぱり寂しいじゃない。 もしかして家庭とか子供のことには頓着しない冷たい人なのかな、とか思って。 ・・・お父さんがセブルスだったらよかったのに」 先ほどから本のページは一向に進んでいなかった。 セブルスは数秒間眉間の皺をより濃くし、羽ペンをインク瓶に入れて、に近寄った。 そして頭を撫で、の瞳を見つめる。 「残念ながら、その嫌味なほどに整っている容姿はまぎれもなくブラックの生き写しだ。 性格が似なかったのがせめてもの救いか、母親の教育が良かったのであろうな」 「お父さんに似てるってマクゴナガル先生にも言われたわ」 「我輩はのことを娘同様に可愛がっている。それでは不足か?」 スネイプが優しく言うと、は顔を上げて笑顔になり、スネイプに抱きついた。 「ううん、ありがとう。セブルス!」 「いつでも父親代わりになってやる。それはルーピンも同じだろう」 「そうだね、リーマスもいるもんね。変なこと言ってごめんね」 は申し訳なさそうに言うと、スネイプから離れ、ソファに座りなおした。 スネイプはの向かい側に座ると、優雅に足を組んで、膝に肘を置いて頬杖をついた。 「我輩とルーピンだったらどちらが父親の方がいい?」 「どっちもどっち!二人とも大好きだもん。それに二人の仲がこれ以上悪くなったらやだし、ノーコメント。 リーマスとも仲良くしてよね、セブルスおじさん」 がおじさんを強調して言うと、スネイプはとたんにしかめっ面になった。 以前、が小さい頃に、リーマスおじさん、セブルスおじさんと彼らを呼んだときに、 セブルスおじさんと呼ばれたスネイプを、自分のことは差し置いてリーマスが爆笑したことがあった。 がセブルスおじさんと呼ぶたびに、いちいちリーマスが可笑しそうに笑うので、 スネイプはに、「セブルスと呼ぶように」と教え込んだのだった。 それ以来はスネイプのことを――からかう時以外は――常にファーストネームで呼ぶようになった。 その後、それを見たリーマスは「セブルスは良くてなぜ私は駄目なんだい?」とに詰め寄り 半ば無理矢理ににファーストネームを呼ばせることに成功した。 そのことを思い出したスネイプは、無理矢理口角を上げて、「おじさんはやめろと言っただろう?」と言った。 笑って言おうとしたのだろうけれど、には、残念ながら顔が引き攣っているようにしか見えなかった。 next 2006/1/24 UP --2006/2/1 修正 補足* 魔力を抑えつけていれば、月経が来たときに魔力が上がっても普段どおり(抑えつける前とは変わらずに)過ごせるということです。 今回の場合は、解放してしまったので薬を飲み続けなければいけません。 解放したら、最初は薬を飲んでも安定するまでに時間がかかります。 今までは家に大きすぎる魔力を抑えるための結界があったのですが、ホグワーツにはないためこのような事態に。(ややこしくてすみません) |