05.いつも図書館で見かけるあの子

彼を最初に知ったのは図書館で。確か2年生のときだった。
その後数回に渡って、私が図書館に行くと決まって同じところにいた。
いっつも闇の魔術か魔法薬学のブースに、ワンパターンに。(いや、ツーパターン?)
あまりにも一生懸命に読む姿が印象的で、あぁきっと面白い本なんだろうな、と思って
横目で本のタイトルをチェックしてあとで読んでみたのだけれど、私には難しすぎて分からなかった。

本以外には目もくれないように見えたから、意地でも視界に入ってやろうと思って、
他の席も空いてるのに隣に座ってみたりして。ああ私はガキだなんて自嘲してみたりして。

でもちらっとグリフィンドールのネクタイを見たとたんにまた視線を本に戻されてしまった。
なんだか本に負けたみたいで、すごい悔しかったの。

次に見たときには、図書館の彼は馬鹿4人組に絡まれてた。
シリウスが彼のことを「スニベルス」と呼ぶから、彼の名前は変わってるのね、なんて素直に思ってた。
今思えばありえないけどね。さすがにスニベルスなんて・・・

ここでグリフィンドールの私が助けに入ってもきっと彼のプライドを傷つけてしまうのだろう。
そう思って私は、リーマスに話しかけた。「シリウスは今忙しいのかしら?」って。
そしたら犬並みの聴力を持ったシリウスは案の定こっちに寄ってきて、
いつの間にか彼への悪戯はなくなってた。この手は使えるわ、なんて思ってその後何回か使った覚えがある。
でも4年生になってからは、シリウスとリーマスがやたらしつこくなってきて、
自分を優先させた私はあまり彼らに寄ることはなくなったけど。





5年生になってから数ヶ月が経った頃、私はどうしても実験がしたかった。
魔法薬学の文献で確認しただけじゃ、反応の過程に納得ができなかったから。

こう見えても私は結構先生ウケのいい、勉強熱心な生徒に思われてる。
だから魔法薬学の教授に頼みこんで放課後の教室を借りて実験をすることになった。
でも、その実験はそこそこ難しいものだったから教授に見てて欲しかったのに、
その日に限って、教授は夕方から用事があるからといって、
「セブルス・スネイプというスリザリンの優秀な生徒に頼んでおく」と言って早々に出て行ってしまった。

セブルス・スネイプというスリザリン生が、図書館の彼だということが分かったときの私の衝撃は凄まじいものだった。
多分数秒は固まっていたと思う。不審に思われてなければいいけど――
ああ前に隣に座ったことなんて覚えてないだろうな、とか
3年生のときに間接的にだけど悪戯をやめさせたのとかも知らないのだろうな、とか
一瞬のうちにいろんなことを考えた。

とにかくそのときの私は本当にいっぱいいっぱいで、柄にもなくドキドキしていた。
後ろには誰もいない、誰もいない、と自分に暗示を掛けて必死に実験をした。
そして無事に実験が終わってほっと一息ついたあとに後ろを振り返ると、彼は凄い形相で立っていた。
そのあとに自己紹介して――もう、ほとんど覚えていない。
ああ、追いかけっこしたのは覚えてるけど。

お詫びを何にしたらいいか散々悩んで、秘密の部屋を教えることにした。
なんでそう思ったのか、これもやっぱり覚えてない。
次の日に、図書館で待ち合わせをした。授業中に無理やり約束を押し付けて。
きっと魔法薬学か闇の魔術のコーナーにいるであろうことは知ってたけれど、気づかれてはいないのだから気づかせてはいけない。
その一心で「図書館でも魔法薬学のところにいるなんて」と白々しく言ってみた。
そしたら彼はぶすっとしたまま「悪いか」と言ってきて、ちょっと笑えた。

そして、彼を秘密の部屋に案内して、たくさん喋った。普段だってこんなに喋らないかもしれない。
夕食を食べに大広間に行くとき、初めてファーストネームで呼んでもらえたときは吃驚した。
数回はファーストネームで呼んでよ、と言ったのになかなか呼んでくれなかった彼は結構な強情だと思う。

そして――名前を呼ばれたときに、自覚したの。


あぁ私は、彼に恋をしたんだ。






next→06

2006/1/17 UP