06.ふと見た窓の外に

少し強い風が、窓から入ってきた。
窓の外に目をやると、ホグワーツの敷地内に緑が溢れている。もう春か。
競技場の方ではクィディッチの練習をしているのであろう、箒に乗った生徒が何人かいた。


「セブルースッ!」


どこかで僕を呼ぶ声が…

気のせいか。



今日、僕はに教えてもらった秘密の場所で、出窓に腰掛けながら魔法薬学の本を読んでいた。
とは、ここで会って以来、会っていない。まぁ数日だけだが。
僕はスリザリンではグリフィンドールであるから、それはさしたる問題ではないだろう。
今日は午後の授業が入っていなく、暇を持て余していたので折角だからとここへやってきた。
そして一人で本を読んでいたのだが――


「セブルスー!」

何だ、うるさいな…って、


「邪魔!どいてー!」
「うわぁあぁっ」





僕は確か、出窓に座っていたはずだ。
何故今僕は床に寝そべっているのだろうか。
我が身に起こったことが理解の範疇を超えていて、悠長にそんなことを考えてしまった。

「どいてって言ったのに…」

この声は、か。
いや、ここに来る者などしかいないのだから当たり前なのだが。

「とりあえず、重い。降りろ」

彼女は僕の背後からやってきて僕を突き飛ばし、あろうことか僕の上に乗っかっていた。
やっと降りたかと思ったらは何故かふてくされていた。
まさかここまで箒でやってきたのだろうか、と窓際を観察してみるとやはり放り出された箒が転がっていた。

「女の子に重いは禁句でしょう」
「だったら最初から乗るな」
「窓に座ってるセブルスが悪い」
「部屋に入ってくるのに箒で突っ込んでくるお前が悪い」

この会話にはキリがないだろう。
そう判断した僕は、先ほどまで読んでいた本を呼び寄せて、を無視して再び読み始めた。
この本にはなかなか興味深いことが書いてあるのだ。実験欲をそそられるものばかり。
僕が魔法薬学を好む理由は、様々な材料を駆使して色々な効能のある薬を作り出すことができる、というのもあるけれど、
薬の製造過程の変化を見るのがが楽しいから、というのが一番の理由だ。
だから僕は何の薬を作るのかには拘らず、色々な実験を試している。

ふと、あるページに目が留まった。
出血を止める薬…作ってみたいな。肝臓の薬も捨てがたい。いっそのこと両方しようか。
是非とも次に研究室を借りるときにでも実験しよう。
出血の薬はニガヨモギ、シルフィウムの実、コリアンダー…まあそれほど手に入れるのに苦労はしないだろうな。
だが肝臓の薬に必要なセシェネの葉やキリストノイバラの粉末は研究室にはなかったはずだ。どうしたものか。

「お、面白そうなもの読んでるね。肝臓の薬って…お酒飲みすぎて肝臓悪くしたとか?」
「そんなわけないだろう!第一まだ未成年だ。これは純粋な興味だ」
「冗談だって。
 あー、今時『セシェネ』っていうんだ。…なかなかマイナーな材料だね。」
「ああ。少なくともセシェネの葉とキリストノイバラの粉末は研究室で見たことがない」
「どうやって手に入れるの?」
「悩みどころだ。薬問屋にも置いてあるかどうか…ノクターンならまだしもホグズミードにはないだろう」

すると、は「むー」と言いながら、頬に手を充てた。

「セブルスは夏休み空いてる?」
「この話の流れでどうしてそうなるのか理解しがたいが。しかも夏休みは大分先だろう。
 まぁ…課題次第だな。他に用事はない」
「そうかそうかー。じゃぁ夏休みは私の家に泊まりだね。けってーい」
「は!?」

この女は突飛な言動が多すぎる。
どうしたらそういう思考ができるのだろうか。
一回頭を割って中身を見てみたいものだ。

「うーんとね。私の趣味っていうかー…今は亡きお祖父ちゃんの趣味だったというか。
 私の家にすっごい大きな温室があるのね。しかも気候に合わせて部屋もあって。さり気に自慢なんだけど。
 セシェネも栽培してるし、キリストノイバラも少しだけどあるから、タダであげるよ」
「本当か!?」

い、いかん。
思わず興奮してしまった。落ち着け、落ち着くんだ僕。
でもタダでなんて…。いいのだろうか、そんな、

「でもセシェネって言っても家に10種くらいあるんだけど…。
 セシェネなら何でもいいのかな。その辺もうちょっと詳しい資料欲しいね」

人がパニくっている間に、独り言のようにぶつぶつと言う

、本当にいいのか…?もらっても…」
「別にいいよ、たくさんあるし。他にもたくさん薬草もあるし。
 薬学バカのセブルスならきっと楽しいと思うよー。
 薬草の栽培のために、ムーンカーフの糞をわざわざ業者に頼んで送ってもらってるの。
 学校がある間の管理はしもべ妖精に任せてるんだけどね。
 それに、セシェネは私が一番好きな花だから気合を入れて池まで作ったの!」

そう言うとは興奮して話し出した。
そんなにセシェネが好きなのか。
というかさり気なく失礼な発言が混じっていたように思うのだが。薬学が好きなことは否定しないが。

「まぁとにかく、気にせずに私のコレクションを見て!って感じ」
「あ…あぁ」


グリフィンドール生とこんな風に喋っているなんて、今までからじゃ考えられないな。

今度の夏休みが楽しみだ。





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2006/1/18 UP
この連載初めてのあとがきっていうか補足。
セシェネとは蓮のことです。古代エジプト名らしい。
何で他のは普通なのに蓮だけエジプト名なのかというと、ただ単に響きが気に入ったから(笑
参考にさせていただきました。