09.メロディに誘われた場所 「セブルス、いらっしゃい!」 夏休みが始まって二日目、僕は早速の家にやってきた。 父に一応手紙を送っておいたので後でとやかく言われることはないだろう。 家から煙突飛行での家にやってくると、嫌味でない程度に広いリビングが目に入った。 「ああ、休暇中よろしく頼む」 「気にしないで!セブルスに部屋を用意させたの。こっち来て!」 はそう言って、僕が止める間もなく僕の荷物を持とうとしたが、やはり持ち上げられなかった。 教科書類だけでなく、色んな本を詰め込んできたから随分重くなってしまったのだ。 僕が苦笑いしてトランクを持ち上げると、少し微笑んで階段を上がっていった。 2階の部屋に着き、荷物を置いてまた下に下がると、リビングのテーブルに紅茶が用意されていた。 「あそこがセブルスの部屋ね。自由に使っていいから」 「ありがとう」 「どうする?これから」 「昼までは課題をやろうと思っている」 「じゃあ午後に温室を案内するね」 「ああ」 紅茶を飲み終えて部屋に戻ろうとすると、は「温室にいるから。お昼にまた戻ってくるね!」と言って去っていった。 を勝手まで見送り、僕に宛がわれた部屋に入った。 この部屋の左側には使い勝手の良さそうな机と椅子、右側にはベッドと本棚が置いてあり、 そして正面には大きなガラス張りの窓に薄いカーテンが掛かっていて、なかなか趣味のいい部屋だった。 僕は、早速一番つまらない魔法史の課題から片付けてしまおうと、教科書と本を机に広げた。 課題を初めてから2時間ほど経った頃、どこからかピアノの音が聞こえてきた。 はこの家にはしもべ妖精以外は住んでいないと言っていたから、 が弾いているか、しもべ妖精が魔法で音を鳴らしているかのどちらかだろう。 時計を確認してみるともうすぐお昼というところだったから、 僕は魔法史の課題を切り上げて、下の階へ降りることにした。 リビングにがいなかったので、外でも見てみようかと思い、勝手口から外に出ると、 先ほどのピアノの音が近くなってきた。 そのまま音のする方へ歩いていくと、大きな倉庫みたいな建物があり、 僕が丁度倉庫の扉の前に着いたところで、ピアノの音が止んだ。 ・・・倉庫のドアを開けっ放しにしているなんて、無用心だな。 好奇心に駆られて、少し中を覘いてみると、あたり一面が緑で埋め尽くされていた。 温室だったのか・・・ それにしても凄い。 「あ、セブルス」 数秒固まったままでいると、横の方からの声がした。 振り向くと、がグランドピアノの椅子に座っていて、が弾いていたのか、と確信した。 「ピアノ弾けるんだな」 「ちょっとだけね」 そう言うと、は慣れた手つきで鍵盤に布をかけ、蓋をした。 「やめるのか?」 「お昼食べてからまた弾いてもいいよ」 「がピアノを弾く姿なんて想像したこともなかったな」 「失礼な」 いつものように軽口を叩きながら、リビングに戻り、昼食を二人で食べた。 その後また温室に戻り、中の部屋を思う存分堪能した。 僕がその後数日間に渡って、温室に籠もったのは言わずもがな。 しかし熱帯気候に合わせた部屋にはもう入りたくないと思う。あの部屋は暑すぎる。 色々な植物を見たり、薬学の実験をしたり、有意義な時間を過ごせた。 「何で温室にピアノなんか置いてるんだ? リビングもあれだけ広いのだから、グランドピアノくらい置けるだろう」 「あれはね、植物に音楽を聞かせるためのピアノなの。 音楽を聞かせるといいっていうじゃない?たまにピアノで弾き語りしたりとかするの。 ・・・セブルス、そのうさんくさい人を見るような表情やめてくれないかしら」 「いや、弾き語りをするの姿を想像してしまっただけだ」 「もう、失礼ね!」 こんな他愛のない日常が、いつまでも続けば良いのに。 next→10 2006/1/21 UP |