「殿」 不貞寝をしようにも寝付けず、着替えずに寝転がっていたところに心地よい低い声が響いた。 「どうしたの?頼久殿」 「神子殿が見つかりましたゆえ、ご報告に参りました」 几帳面だなぁ、本当に。 「頼久殿、御簾を上げてもらっていいですか?」 「かしこまりました」 暗かった部屋に夕陽が差し込む。 「殿・・・!?どうなされたのですか?具合がよろしくないのでしたら――」 「大丈夫。心配しないでください」 「ですが・・・」 確かに泣いたせいで酷い顔かもしれないけどいくらなんでも・・・。 それだけ気遣いが出来るってことなんだけど、ね。 「それで、あかねちゃんは無事?」 「はい。イノリ、という少年といるところを見つけました。天真の知り合いだそうですが」 「それならよかった。何事もなくて」 「はい・・・。・・・・・・殿」 「・・・?」 先ほどより強い眼差しで見つめられる。 「殿は我ら八葉を統べる神子。 神子殿と同じかそれ以上の危険が及ぶと泰明殿に聞いて参りました」 「・・・危険。まぁ、そうでしょうね・・・」 「八葉は神子に仕える者。従って貴方に従う者でもあるのです。どうか・・・ご無理をなさらずに」 「・・・・・・ありがとうございます」 「くっ・・・・・・はぁっ・・・・・・・・」 眠っていたところに突然の胸の痛みが襲う。 「コレは・・・ナシでしょ・・・・・・・」 横向きに体を丸め、胸元を掴んで痛みに耐える。 「あ、かね・・・ちゃん・・・・・・」 「誰か・・・っ!誰か来てっ!!」 突然のあかねの叫び声に、頼久は一瞬驚き、部屋に駆け寄る。 「神子殿っ!どうなさいました」 「頼久さん・・・!部屋中にいっぱい蝶が死んでるの!」 「――異常はないようですが・・・」 「いや。鋭い邪気を感じる。何かが侵入したのは確かだ」 「泰明殿・・・邪気とは・・・」 「神子。何か予兆を感じはしなかったか」 「予兆・・・?あ・・・。怖い夢を見ました。襲われる夢。怖くて・・・それで目が覚めたんです」 あかねは少し考えた後に、ぼそっと呟く。 「―――呪詛をかけられたか」 「呪詛?」 「ああ。――頼久。今この屋敷にいる八葉は?」 「私と泰明殿のみですが・・・」 「仕方ない。ならば頼久、四神の神子の元に行き、ここまで運んできてくれ。 私はこれから藤姫に一室しつらえるように伝えてくる」 「かしこまりました」 頼久は一礼をして外へ出る。 「ねぇ、泰明さん、『運んで』って・・・どういうことですか?」 「このままだと、明晩、神子たちは死ぬ。 恐らくは今、四神の神子も影響を受け、意識を失っている可能性が高い」 「・・・そんな・・・!」 「すぐ戻る」 言葉少なに部屋を去った泰明の背中を見てから目を逸らし、あかねは泣きそうになった。 「なんで・・・ちゃんまで」 「神子殿、失礼いたします」 あかねが振り向けば、頼久に横抱きにされたの姿があった。 2006/10/17 UP |