こっちに来てから、初めて思い出した。



詩紋殿のせいじゃないって分かってる。

それが完璧な八つ当たりだっていうことも。

罪悪感とともに押し寄せる不快感。

思い出してしまった不快と、忘れていたことに対する嫌悪。




使われるだけなんて・・・

利用されるだけなんて、嫌だった。





・・・でも私には・・・愛に飢えた私には、その道しか残されていなかったんだ。





「・・・なんだかヤケ酒の気分だわ」


私の過去。――そう、もう過去の話なのだ。


モデルをやっていたことは事実。
自分で言うのもなんだけれど、雑誌モデルにしては結構な人気があったと自覚している。


女性ファッション誌の専属モデルとCMタレントの兼業。


こう言ってしまえば聞こえはいいけれど。


周りからはちやほやされるけれど、本物の愛はもらえなかった。
ファンの存在は素直に嬉しい。
けれど、虚しかった。

社長以外は知らない事実。
私はもともと孤児院出身で、8歳のときに引き取ってくれたのが社長。
だから社長には恩を感じている。

ただの、恩。

それは育ての親に向けるものではない。

でも。 いつか――何年先か、何十年先か――愛がもらえるのだと信じて、ずっと彼女のために働いた。

朝から深夜までかかる撮影。
体型維持のためのトレーニングと食生活の管理。
睡眠時間を削っての毎日の仕事。

それこそ寝る間もないほどに努力した。
・・・報われる日なんかこないこと、分かってたけれど。


高校を卒業し、私は一か八かの賭けに出た。 義母に、モデル活動の休止を提案したのだった。
答えは物凄くあっけないもの。

『別にいいけれど、生活費は出さないわよ』

高校に入ってからはずっとマネージャーの家に居候していたから、 モデル活動の休止を表明してからは家を出て、一人暮らしを始めた。 唯一の救いは、ギャラにはほとんど手を付けずに貯金をしていたこと。

無事第一志望の短大に推薦入学を決めていた私は、短大入学と同時に一人暮らしをはじめた。 仕事がない生活に慣れ始めたとき、四神に引き寄せられ、京へと来てしまった。 でも不思議と、早く帰りたいだとか、あっちの人は心配しているだろうか、などとは思わないのだ。

こちらでの生活は多少不便があるものの、必要としてくれる人がいるから。
今はまだ力が足りなくて無理だけれど、 夢で逢った四神を名乗る彼らの話だったら徐々にでも封印が解けたら私の出番も回ってくる。


――たぶん、もし帰れなかったとしても私は何とも思わないだろう。


あっちに帰ったとしても、私の生きる意味などあるのだろうか。



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2006/7/29 UP