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逃げろ、逃げろ、逃げろ 力の限り逃げるんだ まだ死ねない 私にはやらなきゃいけないことがあるんだ あの子を、あの子を守らなきゃ―― 「ちゃーんっ！」 「あ、おはよう、リンゴ」 「おはよう！・・・じゃなくって！遅刻！遅刻する！」 「あーごめんっ！」 急ぎ足で制服に着替えて、下に降り、テーブルに重ねてあったトーストを1枚取ってくわえてA.Tを履く。 長屋を出ると後ろからリンゴが付いてきた。 リンゴは周りのヤツらにA.Tをやっていることを内緒にしているから、キックボードで登校。 「もうすぐ春休みだねえ」 「うん、そうだね」 リンゴの言葉に相槌を打ちながらも、頭の中では別のことを考えていた。 なぜ、今―― 今、私は中学2年生。 でも本当の年齢は・・・言いたくはないけれど、実はもう30過ぎ。 10歳のときからホグワーツ魔法魔術学校という学校に7年間通い、 そして卒業後もイギリスに留まり、騎士団の仕事を引き受けていて、10年前まではイギリスに住んでいた。 ――そう、私は魔女なのだ。 両親はイギリス人で魔法族の名家の父と、日本人の巫女だった母。母はマグル出身でも、天才肌の魔女だった。 私は人種的にも、魔法族としてもハーフだったけれど、西洋魔術と東洋呪術の両方を使いこなせる数少ない人間だった。 でも魔女だった私は、既に10年前のハロウィーンに死んだことになっている。 ――両親が、身を挺して守ってくれたから、こうやって日本で暮らしているのだけれど。 ヴォルデモードに襲われたとき、父は未認可の移動キーを作って、私を母の実家に送ってくれた。 魔力を奪い取られたことと、移動キーでの長旅によって、イギリスから日本に着いた頃には、既に幼稚園児くらいにまで縮んでいた。 それ以来、母の実家の人たちが嫌がったし、フクロウも使えなかったから以前交流があった人たちとは全く連絡を取ってない。 心残りは、ジェームズたちを守りきれなかったこと。 ヴォルデモードはあの時、「これからポッターのところへ行く」と言っていた。 どうこうする前に日本に送られてしまったから、3人とも死んでしまったかもしれない。 ハリーはまだ1歳にもなってなかったのに…。騎士団で生き残っている人はどれくらいいるのだろうか。 もうあれから10年も経っているから、みんな無事に過ごしているかとても気になる。 私は10年前に幼稚園児ほどまで縮んだけれど、マグルの半分以下のスピードほどで少しずつ身体も成長し、 今の姿まで大きくなってから、学校にも行ってないのが世間にバレるのが嫌だったらしく、中学校に入ることになった。 どうせ小学校のことは適当に取り繕ったのだろう。 今の姿は20歳の頃とほとんど変わりはないから――当時、みんなから童顔と言われ続けた――きっと昔の友達に会ったら、 この若作りめ！とか言われるかもしれない。 そして今は母の実家の身勝手な都合で、今は野山野家に居候している。 私としてもリンゴたちと生活できるのは願ったり叶ったりだから反抗はしなかったけれど。 居候を始めてから、エア・トレックを始めて、新しく友達もたくさん出来た。 最近になってからは同じクラスのイッキがA.Tのチームを作ったから興味本位で入ってみたりとか。 A.Tを始めても、20年来の習慣はなかなか抜けず、杖だけは今もずっと肌身離さず持ち歩いている。 姿は中学生でも本当は30歳だから、使っても魔法省の規制にも引っかからないし。 ・・・実際に魔法を使ったことは何回かしかないけれど。ごまかすの大変だしね。 それに、今の魔力は学生時代の半分以下。簡単な魔法ならまだしも、難しい魔法はあまり使えない。 一度失われた魔力は、自動的に元の状態まで回復してくれることはないから。 ほんの少しずつなら回復するけれど、元の魔力まで回復するにはきっと何十年もかかるだろう。 取り返すか、与えてもらうか――どちらにしろ、今の私に出来る方法ではない。 何で今更、あの日の夢を見たんだろう。 まさか10年経って、ヴォルデモードが私の存在を突き止めたとか・・・？ 魔力が戻ってないということは、ヴォルデモードが敗れたというわけではないのだろう。 敗れたのなら奪われた魔力も私の元へ返ってくるはず。 そのことばかりが気になって、授業なんかまともに受けていられなかった。 他の科目ならともかく、中学生の英語なんて受ける気になれない。こんな英語、日常生活に必要ないっつーの。 小さい頃からイギリスと日本を行き来して、更に7年間をイギリスの学校で過ごしたんだから。 私がハーフだからか、先生もとやかく言ってくることはない。 もしかしたら去年に当てられたときに精一杯の嫌がらせを実行したからかもしれないけど。 だからたまに教科書を読ませられるくらいで、当てられることもないし。大体英語の授業は私の睡眠時間に充てられる。 しかもこの英語の先生、26歳の若い先生。・・・・・・自分よりも年下の人に、英語教えられてもねぇ・・・ その日の放課後、いつも通りに小烏丸のメンバーで屋上に集まっていた。 とはいえ咢は給水タンクのところで寝てるし、イッキは何やらフェンスの傍で考え事をしてるし、私もボーっとしてたから、 盛り上がってるのはオニギリとカズとブッチャとヤンスだけ。 「ぬっはー！」 突然のオニギリの叫ぶ声に吃驚して、身体がビクッと震えた。 「どうしたオニギリっ!!」 「・・・ここだ・・・見ろ・・・！どうやら俺もA.Tを始めて進化してきたようだ・・・。 この位置・・・角度・・・間違いねぇ・・・。A.Tがあれば、ここはパラダイススポットだ!!!」 盛り上がる4人。 「いつもながらくだらない・・・」 「起きろーアギトッ！ッ！バトルだ〜〜バトル！今日こそお前らがいねぇと話にならね――っ」 「うっせーな聞こえてたよファック!!つーかそんな理由で俺が"道"を走ると思うか？」 「あたしもパス。それに女の敵に加担したくない」 「勝手に行って勝手に死ね」 「んだとテメェらコラ！ちったぁ役に立ちやがれ！」 「だまれ!!消えろ!!ガタガタ言うならまずはテメェらを俺の"道"にしてやるぜ？」 「あたし、今日は帰るから」 「あ、!?」 捕まる前にカバンを肩に掛けてジャンプして、それからフェンスの高い位置に手を掛け鉄棒の要領で回転して乗り越えて、壁を滑り落ちる。 A.Tを初めてから既に3年、壁系のトリックなら完璧にこなす自信がある。 「チッ・・・逃げたか」 あんたらに捕まるようなあたしじゃありません。捕まってたまるか。 夢を気にしたところで、私には何もできることはないのだから、いっそのこと気にしないことにした。 でも一応、ダンブルドア先生に手紙を送ろうかな。死んだと思ってた私が実は日本で生きてたなんて知ったら驚くだろうなぁ。 けれどあの校長先生なら本当は知ってて私をそのままにしてたかもしれない。 道の途中にあるビルの壁や、塀、屋根を使ってトリックを決めていく。 ホグワーツにいたときも飛行術は得意だったし、大好きだったけれど、A.Tとは全く違う。 魔法を使わなくても――マグルでも――人間の力だけで、こんなに楽しく空を飛ぶことができるんだ。 エア・トレックが生まれたのは魔法を使えないマグルが、どうしても空を飛びたかったからなのかもしれない。 2006/2/3 UP |