は学校から出てからそのまま、街で一番高いかと思われるビルの屋上に来ていた。 ここからは街が見渡せ、そして、夜景がとても綺麗な場所だった。は考え事をするとき、よくここに来る。のお気に入りの場所のひとつだ。 は後ろから人の気配がするのを感じて、勢いよく振り返った。 騎士団で3年過ごしていたこともあり、動物の気配などには敏感だ。気配を感じ取れないと命の危険に繋がるから、 いやでも身についた能力だった。 けれど、少し過敏になっているのは――今日のあの夢のせいかもしれない。 「ちゃん、どうしたんだい?今日は走り方が乱れてたけれど」 「スピ君か・・・」 が移動している途中、スピット・ファイアがを見つけて、の後姿を追ってきたのだった。 今日の彼女の走り方とトリックは、少々荒っぽい気がして、心配になったのもひとつの理由だった。 は走りとトリックに美学を求める。そんなが何故こんな走り方をするのだろう、と。 「ちょっと夢見が悪くてね」 は自嘲するように笑った。 それを見たスピット・ファイアは苦笑いをした。特に悩み事というわけではないのだろう。 それならば放っておいてあげたほうが彼女のためになる。 「あまり思いつめない方がいい」 「ありがと」 会話が途切れると同時に、スピット・ファイアは今日は久しぶりに思うままに走ってみようか――と思い、 そのまま音をたてないように気遣いながら飛び立った。 スピット・ファイアの気配が消え、は彼が気を使ってくれたことを悟った。 「――年下のコに気を使わせるなんて、情けないなぁ」 地面に横になって伸びをする。 が思いを馳せるのはいつも決まって、親友とも呼べる友人たちのこと。 シリウスとリーマス、ピーターは元気だろうか。 ジェームズやリリー、ハリーは生きているだろうか。 ――・・・セブルスはどうしているだろうか。 連絡も寄越さない私に愛想を尽かしているかもしれない・・・と思うと、は何だか切なくなってくるのを感じた。 もしかしたらセブルスも馬鹿正直に、世間一般の「・死亡説」を信じているかもしれない。 その日の夜、は夕食のあとに宿題そっちのけで部屋に籠もり(どうせ中学を出ようという気はないのだ。 既にホグワーツを卒業しているし、イギリスに行けば就職先などいくらでもある)、 リカに便箋と封筒を譲ってもらい、ひとり黙々と手紙を書いていた。 マグルの郵便ではホグワーツまで手紙を送ることはできない。 けれどふくろう便は使えないため、エアメールで漏れ鍋経由でダンブルドアに届けてもらうことにしたのだった。
「こんなもんかなー・・・」 は手紙を書き終えると封筒の中に入れて、封筒の表に「ダンブルドア先生へ」と書き、 更にその封筒を少し大きめの封筒の中に入れ、表に漏れ鍋の住所と裏に長屋の住所を書いた。 そして中にトム宛に、「この封筒をダンブルドア先生に送ってください。 お手数かけて申し訳ないけどよろしくお願いします。今度久しぶりに漏れ鍋に行きたいわ。」 という短いメモを入れて封をすると、ふぅっと息を吐いた。 「――手紙なんて書いたの、何年ぶりかしら・・・」 少なくとも、こっちに来てからは書いた覚えがない。 マグルの郵便は少し不便だし、それに送る相手も――みんな隠れ家に住んでいたから、 住所さえも知らなかった――、ひとりとしていなかった。 「明日学校帰りに郵便局行こーっと。エアメールっていくらするんだろう・・・」 は、ふくろう便はタダなのにな――と少し不貞腐れてベッドに転がる。 もし今日の夢が何らかの力が私に見せたものだったら。 予知夢の類のものだったら。 嫌な予感は私の中から、いつまでたっても拭い去ることはできなかった。 ただの占いや予知なら当たるように祈るものだけれど、今回は闇の陣営に関ってきそうだ。 そうなると人の生死に関る。とにかく外れてくれるように祈るしかない。 ――今日はなんだか疲れたな。このまま寝てしまおうか。 は寝る決心をしてから歯を磨いていないことに気づいたけれど、一日くらいいいか、とそのまま目を閉じた。 友人たちの無事を信じながら。 2006/2/4 UP |