とセブルスが去った後、イッキは激しく自責の念に囚われていた。 そしてリンゴや蜜柑も、本人を前にしては理解したように見せていたが、 いきなりの恋人だという外人が来て、実はは30歳だったと言われても、 何だか現実離れしていて信じられなかった。 でもあのときイッキが喋れないでもがいていたということは、 魔法というものはこの世に存在するものなんだと、それだけが確信だった。

そして、その日野山野家の住人が寝静まったのは、深夜に入ろうかという時間帯だった。





翌朝。
イッキは何やら大きな音がしたので目が覚めた。
そして、心なしか階下が騒がしい気がした。

「なんだ?こんな朝っぱらから・・・」

イッキが下へ下りると、玄関のところに奇妙な服装の得体の知れない人物が立っているのが 目に入った。 その隣には困惑顔のリンゴがいる。どうやら対応に困っているようだった。

「誰だー・・・って、まだ春なのにサンタかよ!」

その声でダンブルドアはイッキに気づき、ニコニコと笑いながらイッキに声を掛けた。

「朝早くにすまんのう。イギリスとこちらに時差があることを忘れておったわい」
「じーさん・・・日本人じゃないよな・・・昨日の男の関係者か?」
「ちょ、イッキ!その言い方は失礼だよ!」
「いやいや、構わんよ、お嬢さん。わしはホグワーツの校長のアルバス・ダンブルドアじゃ。 とセブルスの上司とでも言えばいいか・・・ とりあえず、の使いとでも思ってもらえればそれでいいじゃろう」
「あー、で、上がんねぇの?」
の荷物を取りに来ただけじゃからのう」
「で、でも!さっきも言ったとおり、ちゃんは自分のものを人に触られるのを嫌がってて・・・」
「うむ・・・」

そこでダンブルドアは自慢の長い髭をさすり、目を細めた。

「わしなら大丈夫じゃろう。それで お聞きしたいのじゃが・・・エア・トレックとは何のことかね? から持ってくるように言われたんじゃがのう・・・」

エア・トレックという単語にリンゴとイッキが一瞬ぴくっとしたが、 リンゴは落ち着いて玄関に放置されている一組のA.Tを手に取った。

「これがちゃんのエア・トレックです」
「ほう、靴のことじゃったのか。『空の旅』とはなかなか洒落た名前じゃのう。 ・・・そうじゃ。忘れるところだったわい。 からの言付けでは、の服など使いたいものがあったら勝手に使っていいということじゃ。 落ち着いたらきっとこちらにも来るだろう。それまで待っててやってくれるかね?」
「も、もちろんです!」
「でもリンゴじゃの服は入んな・・・グホッ
「それでは失礼。いきなり訪ねてすまんかったのう」
「いえ・・・。ちゃんによろしくお願いします。・・・待ってるって伝えてください」

その言葉にダンブルドアは目を細めて微笑み、 来たときに倒してしまった傘立てやら何やらを杖一振りで直し、 再びバーン!という音を立てて姿を消した。

は何かを決めたらそれを自ら覆すようなことはしない人だから自分がどうこうしたって無駄、 永遠に会えないわけじゃないんだから、とリンゴは自分自身に言い聞かせ、 思い出したようにイッキに目を向けた。 しかしイッキはリンゴのパンチによって既に伸びていて、 仕方ないのでリンゴは自分の部屋に戻ってもう一眠りすることにした。

せっかくの春休みなんだから。
きっと、新学期になったら帰ってくる。

その後、イッキが意識を取り戻したのは太陽が南に昇るころだった。





そのころとセブルスは、セブルスの研究所で忙しく過ごしていた。
とセブルスは、校長室から戻ると紅茶を飲んで一息つき、そしてすぐに作業を開始していた。 セブルスはセブルスで自身が出した課題の採点や魔法省からの書類を片付けなければいけなかったし、 はホグワーツに勤めることができることと、 また大好きな薬問屋を再開させることができることで気分が高揚し、 とてもじゃないがゆっくりする気にはなれなかった。
何でもいいから、何かをしたくて、は早速セブルスの書類を手伝ったり、 セブルスが行った薬草倉庫の在庫チェックを元に注文票を作ったりと、羽ペンを忙しなく動かしていた。

、これにもサインを」
「分かったわ」

セブルスが、が教職に就くための書類を手渡すと、 は書類にさっと目を通し、羽ペンですらすらととサインをした。

「はい、どうぞ」
「ああ。あとこれもだ」
「まとめて渡してくれればいいのに――って・・・ムードもへったくれもないわね」

いささか雑に渡されたそれは、先ほどダンブルドアからもらった婚姻届。

「これで書類上でもセブルスのお嫁さんね――はい。セブルス、出してくれる?」
「・・・ダイアゴン横丁に行くときについでに魔法省にも寄ろう」
「分かったわ」





「今日はこの辺で終わりにしとこうかなー・・・」

が座ったまま伸びをすると、セブルスは紅茶をに差し出し、苦笑いをした。

「まだ仕事に就いていないのに、飛ばし過ぎだろう」
「現役薬屋さんのときはもっと忙しかったから大丈夫!」
「今からこんなハイペースでは先が思いやられるな」
「大丈夫だって言ってるでしょうが」

は頬を膨らませてセブルスを見た。
そしては困ったように微笑み、それから2人は机から離れ、ソファに移動した。

「セブルス、老けたね・・・」
「2回目だ」
「私がいない間に、色々あったんだもんね。セブルスが、すごく大人に見える」
・・・ひとつだけ、聞いてもいいか?」
「・・・うん」
「なぜ、今まで連絡できなかったのか。本家に見張られていたとは一体――」
「中学に入るまでの8年くらいは、ほとんどずっと監視されてた。中学に入って、1年経って。 そうしたら大分監視がなくなったの。そこにあの予知夢が・・・。 でも、本当はね。怖かった」
「怖い?」
「うん。・・・長い間連絡のひとつもできないでいて、私が死んだと思ってる人が大多数だったはず。 もしセブルスが死んでいたら、・・・セブルスが受け入れてくれなかったらって思うと、なかなか行動に移せなかった」
・・・、我輩がのことを受け入れないとでも?到底あり得ない話だ」
「・・・そうね。愛してるわ。これからはずっと一緒にいてね」
「ああ」



←back | next→


2006/6/2 UP