「ここも何も変わってないのね」 「生憎、生徒の質もそのままだ・・・薬学に関しては下がっているかもしれんがな」 とセブルスは玄関ホールを通り、 ちょうど食事時で生徒と教師が集まっているであろう大広間を目指した。 開いたままの大広間の扉を抜ける。 大広間に着くと、丁度食事を終えたらしい生徒とすれ違い、は懐かしい気分になった。 「誰だ?あれ」 「あのスネイプが女の人を連れてるぜ!」 「「しかも美人だ!」」 が大広間の中に入ってきたことによって、あたりは騒然となった。 しかしセブルスは、騒ぎの中心であるグリフィンドールに目もくれず、 一直線に教員席へと向かった。 そして教員席の真ん中にいるダンブルドアの前まで来ると少し右に逸れ、 代わりにが一歩前に出て、ダンブルドアに向かい微笑んだ。 「ダンブルドア先生、お久しぶりです。マクゴナガル先生も」 「おお!待っておったぞ。まさか今日のうちに来てくれるとは思っていなかったがの」 は机越しにダンブルドアと、その隣で目を潤ませているマクゴナガルとハグをした。 「・・・生きていてくれてとても嬉しいですよ」 「ありがとうございます。先生達もお変わりないようで」 「ここではなんじゃ、とりあえず糖蜜パイなんぞいかがかの?」 ダンブルドアがウインクすると、は、あぁホグワーツに戻ってきたんだ・・・と 幸せな気持ちが溢れ出るようだった。 「ありがとうございます、校長先生」 「さてと。そろそろ行くかの?」 「そうですね」 ダンブルドアの発した言葉にが相槌を打つと、 セブルスは早くこの場を立ち去りたいとでも言うかのように立ち上がった。 もう食事の時間も終わるというのに心なしか、まだ生徒の数が多い。 まだ食べ終わっていない生徒が残っているだけでなく、 珍客を一目見たいという生徒が、少なからず大広間に舞い戻ってきているようだった。 セブルスに続いて立ち上がり、歩き出したダンブルドアの後ろにマクゴナガルが、 更にその後ろにセブルスとが付いて歩く。 大広間にいる生徒の合間を縫って外へ出る。 セブルスがが注目されていることに不快感を感じたが、 この美しくも聡い女性が自分のものであるということに仄かな優越感をもった。 校長室に着くと、ダンブルドアの隣にマクゴナガルが、 の隣にセブルスが座り、テーブルを挟んで向かい合った。 「セブルスから大体の話は聞いておるよ。、今まで大変だったの」 「いえ・・・その・・・許してください・・・」 「何をじゃ?は何も悪いことなどしておらんよ」 「でも・・・!私、リリーたちを守れませんでした。守るって決めてたのに・・・。 それに、すぐ連絡もできなくて・・・。本家に見張られていたからとはいえ、 考えれば連絡する方法もあったかもしれないのに。そのままずるずる10年も」 「・・・。自分を責めるのはおよしなさい。 誰が何と言おうと、あなたは何も悪くないのです」 思わず目を潤ませたに、マクゴナガルが優しく声を掛けた。 「、あまり自分を卑下するでない。 ・・・さ、辛気臭い話はここまでじゃ!折角が無事にホグワーツに戻ってきたんじゃからの。 セブルスと結婚するんじゃろう?挙式は――」 「ダンブルドア先生!」 言葉を続けようとするダンブルドアに、は焦って言葉を遮った。 「わしはの――とセブルスに幸せになってもらいたいのじゃよ。 二人は十分、苦しみを味わった。一刻も早く幸せになるべきじゃ」 ダンブルドアはそこで言葉を区切ると、キラキラした目を細めて、 愛しい者を見るように、セブルスとを交互に見た。 「にはホグワーツの教師になってもらいたいと思ってるんじゃが・・・。 もちろん、ハリーと一緒に勉強したいというのなら生徒でも構わんがの?」 そう言うとダンブルドアはクスクスと笑い、返答を求めるようにを見た。 「さすがに生徒は無理なんじゃないですか?」 「そんなことはないぞ。世の中には縮み薬という便利なものがある」 「・・・でも、やっぱり生徒は無理でしょう。それに、生徒だとセブルスとも一緒にいれませんし。 かといって教師というのも・・・――温室の管理者っていうのはいかがです? そうしたら週の半分くらいはお店を開けると思うんですが」 「むむ・・・」 どうやらダンブルドアはそう言われるとは思っていなかったようで、考え込んだ。 「温室の管理者だけでなく、セブルスの助手というのはどうじゃ?」 「構いませんけど――ダンブルドア先生、私、やっぱりお店は続けたいんです」 見詰め合うダンブルドアとの隣で、マクゴナガルとセブルスは見守っていただけだったのだが、 セブルスが不意に口を開いた。 「――では、曜日ごとにスケジュールを決めてはいかがですかな」 「それがいいわ!ねぇ、先生、そうしましょう?」 「仕方がないのう。できればにはホグワーツに留まっていてほしいのじゃが」 「でもお店はホグズミードです。大丈夫ですよ」 そこで、やっとマクゴナガルが声を出した。 「あなたのことですから、セブルスの妻になるということは生徒には伏せるのでしょう? 助手で就くのがセブルスだけだと訝しがる生徒も出てくるはず。 それならば薬草学、薬学の助手ということにしてはどうでしょう?」 「そうですね。土日はお店をやらせてもらってもいいですか?」 「週末くらい休みたまえ」 そこから週ごとのスケジュールを話し合う会議状態になり、 結局月曜から木曜をホグワーツで温室管理者兼助手として過ごし、 金曜を薬問屋に充て、土曜を予備にし、日曜は休むということで結論づいた。 月曜から木曜のホグワーツでの仕事は、適宜スプラウトとセブルスとの間で決めることとなった。 「では。よろしくお願いしますね」 「はい、頑張ります。――新学期からといわず、もうお仕事始めたほうがいいのかしら? ・・・忙しい方が性に合ってるので、できれば仕事したいのですが」 「でも・・・大丈夫なのですか?」 「えぇ。残してきた人に挨拶は出来なかったけれど、休暇のときにでもすればいいし、 それに気まずいんです。とりあえず必要な荷物だけセブルスに持ってきてもらおうかと思って」 「それならばいいんですが・・・」 「もう仕事に就いてくれるのならば、その辺はわしがやっておこう。 とりあえず今日は休みなさい。疲れておるんじゃろう?」 「・・・ええ、まあ・・・少し。では・・・ あの、荷物なんですが、『エア・トレック』というものだけ持ってきていただけませんか?」 「『エア・トレック』?」 「ローラースケートのようなものなんですが。住人に聞けば分かると思います。とても大事なもので――」 「同居人に聞けばいいんじゃな? それから――今週中にダイアゴン横丁に行ってもらい、必要なものを買い揃えてもらいたいんじゃがいいかのう?」 「はい、分かりました」 「今日はゆっくりするんじゃ。今日は日曜だし―― セブルスも今日くらい仕事は休めるじゃろう?ほれ、レモンキャンディーじゃ」 とセブルスに1個ずつレモンキャンディーを渡すとダンブルドアは微笑み、 マクゴナガルが立ち上がったのでそれにつられてセブルスとも立ち上がった。 「おお、忘れるところじゃった。これも持って行きなさい」 ダンブルドアはそう言うと、何枚かの紙をセブルスに渡した。 「セブルス、それ何?」 「――婚姻届だ」 がその言葉でぱっとダンブルドアの顔を見ると、 ダンブルドアは相変わらずニコニコと笑みを浮かべていた。 「善は急げじゃ。保証人のところは既にサインしておるぞ」 「――ありがとうございます!」 は心からの笑顔を浮かべ、セブルスは困ったように、けれども嬉しそうに微笑んだ。 2006/2/17 UP |