「・・・友雅殿、どうしたのですか?」
「この前の件でね。藤姫のお耳にも入れたいから殿も一緒に来てくれないかい?」
「――分かりました」


昼というにはまだ早い時間に友雅殿はやってきて、開口一番にそう言った。
断る理由もないし、そもそもその話を吹っかけたのは私だったので素直に藤姫の部屋へと足を進めた。


「右京を過ぎた郊外、幽墟な地に屋敷を構えて、町に現れては人々の話を聞き、 病気平癒を祈ってくれる。それだけでも下々の者にはうれしいものを、実際には病も 治ってしまう・・・――」
「その人は龍神の神子と名乗っているのですか?・・・なんてひどいっ!」
「藤姫、落ち着いて」
「今調べてもらっていますよ」
「一体何が目的なのか・・・・・・さて、さしずめこちらが土御門の神子で、 あちらは桂の神子と言うのでしょうかね?」
「友雅殿、そのような呼び方、お止めくださいっ!龍神の神子は唯お一人ですっ!
・・・神子様にはどうかお話くださいますな、友雅殿・・・」

そこへ、一人の女中がやってきた。
私がそれに応対し、頼久殿に中に入ってもらった。

「どうしたの?頼久さん」
「・・・・・・頼久めの不覚にございます。文を残して神子殿のお姿がどこにも―― 邸内はもとよりこの付近もお捜ししたのですが・・・」
「これは・・・土御門の神子殿はお耳が早くて」

友雅殿はクスクスと笑い、藤姫は泣きそうな表情になっている。

「み・・・っ神子様ぁっ!?」
「・・・とりあえず、頼久殿は付近にいる八葉に声をかけ、早くあかねちゃんを探し出してください。 ・・・あちらの神子が害がないとも思えないし」
「そうだね。私はこれから内裏に行かなければならないから頼んだよ」
「かしこまりました」


友雅殿と頼久殿が連れたって屋敷を出て、藤姫は占いをすると部屋にこもってしまった。 私はやることがなくて、縁側に座り、庭に向かってぼーっとしていた。 それから一刻ほど経ち、金髪の少年が邸内にやってきた。

「え、と・・・さん?」
「・・・?あなたは――」
「僕は、流山詩紋っていうんだ」
「ああ、あなたが詩紋殿ね。はじめまして、藤原です」
「・・・さんも現代からやってきたんですよね?」
「そうよ。・・・どうして分かったの?」
「違うならすみません!もしかして――もしかして、モデルの・・・?」
「・・・!」

まさか、知ってる人がいるなんて。

私の過去を。

封印したかった過去を。

「あ・・・違うなら、ごめんなさい・・・」
「いいえ。確かに以前モデルをやっていたことはあるわ。でも・・・」



過去を掘り返さないで。


思い出させないで。


・・・お願い。





「その話は、しないで」





私はさっさと部屋に帰り、その場には立ち尽くした詩紋殿だけが残った。





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2006/7/11 UP