「はじめまして、私は藤原鷹道と申します」 「・・・はじめまして。です。これからここでお世話になります」 鷹通さんは私の向かいに腰を下ろした。 それからは終始無言で、痛い沈黙。 話題に困る。こういう状況って。多分鷹通さんも何喋ればいいか分からないんだろうなぁ。 「えぇと・・・失礼かとは思うのですが、お年を聞かせて頂いてもよろしいですか?」 「今日で19になりました」 「今日が誕生日だったのですか。おめでとうございます」 「ありがとうございます。誕生日に災難に巻き込まれちゃったんですけどね」 私が苦笑いをすると、鷹通さんは優しく笑った。 「私も同い年なんですよ。ですからあまり気を使わないでくださいね」 「お、同い年・・・!?」 「・・・・・・やっぱり老けて見えますか?よく言われるのですが」 「いえ、老けてるというか、大人っぽかったものですから・・・。 あの・・・同い年ならなおさら敬語とか使わなくていいので・・・」 「ああ、お気に触ったのでしたらすみません。癖のようなものなので」 「そういうわけじゃないんですけど・・・その、むず痒いというか」 「努力はしてみましょう。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってください。 私に敬語を使う必要もないですし。殿は客人ですから」 「ありがとうございます・・・」 私が微笑み、鷹通さんが微笑む。 そして鷹通さんは真面目な表情になった。 「あなたに言うべきことではないのかもしれません。 出すぎたことかもしれませんが・・・。 この先、叔母からあなたに言うことはないでしょう。 ・・・あなたを助けたのには、ほんの少しばかりですが、訳があるのです」 「訳、ですか」 「あなたは、叔母上の亡くなった――私の従姉妹によく似ているのです」 「あぁ・・・なるほど」 「あなたに頼んだこと・・・――叔母上の我が儘ですが、お許しください」 「いえ、私、嬉しいくらいなんです」 少し目を細めながら言うと、鷹道さんは不思議そうな顔をする。 「私、親を知らないので・・・親代わりになってくれるって言われて、すごく嬉しかった。 こんな状況なのに、元の世界に戻りたいとか、全然思わないんです。 でも、元の世界には私のことを愛してくれる人なんて、いなかったから。 むしろずっとここにいたいくらい・・・」 「殿・・・泣かないでください」 「え・・・」 いつの間に泣いていたのだろう。 鷹通さんが手を伸ばして、涙を拭ってくれた。 「正直、叔母上の元に残っていただけて感謝しています。 身勝手かもしれませんが、今までの叔母上は見ていられなかった・・・。 もしよろしければ、叔母上のために・・・私のために、ずっとここにいてください」 「鷹通さん、ありがとう」 話に区切りがついたところで、先ほどから言いたかったことをやっと口にする。 「鷹通さん、とりあえず『殿』はやめてもらえませんか・・・」 「ですが」 「『』でいいので!呼び捨てで!」 「しかし」 「同い年なんですよ?」 「女性を呼び捨てにするわけには・・・」 「じゃあお互いに呼び捨てにしましょ? これからしょっちゅう会うんだし、鷹通さんと、早く打ち解けたいの」 「・・・仕方ありませんね」 「やった!これからよろしくね、『鷹通』」 「こちらこそ・・・『』」 鷹通からまた近いうちに伺いますと約束され、鷹通は自分のお屋敷へと帰っていった。 もうあたりはすっかり暗くなっていて、外に出ようとしたら桜さんに止められた。 「さま、夜は出歩きにならないでくださいませ」 「何かあるの?」 「このあたりではまだ少ないですが、外にいては怨霊が襲ってくるやもしれません。 危険ですので、お屋敷の外には出ないようにお願いいたします」 「・・・分かりました」 2006/3/21 UP |