「さま!?大丈夫ですか?」 「大丈夫ですよ。桜さん、心配しすぎですって」 さっきから、やたら眩暈がする。 なんでこんなにふらふらするんだろう。どうしたのかなぁ。 「とりあえず今日はここまでにいたしましょう」 「平気ですよ」 「いいえ!奥様も心配されます」 「分かりましたよー・・・」 私がこの屋敷に来て、早1ヶ月。 私は鷹通や桜さんや母上から字や礼儀作法を学び、その傍らで京について調べていた。 最初は慣れなかった着物も1ヶ月も着ていれば慣れるもので、自分で言うのもなんだけれど、 それなりに様になってきたように感じる。 ここに来る前に着ていた服は1週間ほど前に、桜さんに処分してもらった。 前の世界にさほど未練がないのには、自分でさえも驚いている。 唯一の心配ごとと言えば、ここ1年ほど会っていなかった、弟のような存在。 それでも今は元気にしているのかなぁくらいだけど。 鷹通ともこの1ヶ月で大分仲良くなった。 今でも殿って呼ばれたりもするけれど、 きっと女の子を呼び捨てにしたことなんかないんだろうから仕方ないんだろうな。 部屋に戻って本を読む。 ここの雰囲気が好き。 ゆったりと流れる時間が好き。 ここには私のことを愛してくれる人がいる。 気にかけてくれる人がいる。 心から優しくしてくれる人がいる。 荒んでいた現代よりも、こっちのほうが絶対いい。 「鷹通さまっ!」 「一体どうしたのですか?」 鷹通はその日、に勉強を教える約束をしていて、朝から屋敷に向かっていた。 そして門をくぐった先に鷹通が見たのは、慌てふためいた女房の姿だった。 「さまがお倒れになられたのです!」 「本当ですか?」 「部屋でお休みになられています。医者に診てもらったのですが、何も異常はないと・・・」 その言葉が終わるや否や、鷹通はの部屋へ急いだ。 「失礼しますよ」 横たわるの白い頬。 元々白い方のだったけれど、今日はその白さが一層際立って見えた。 は目だけを動かして鷹通の姿を確認した。 「鷹通、おはよう。ごめんね、今日は無理かも」 「一体どうしたのですか」 「急に力が抜けて・・・体が重くて、動かせないの。かろうじて口は動くんだけどね」 布団から腕を出し、ゆっくりと鷹通の方へ手を伸ばす。 鷹通はその華奢な手を取り、の隣に腰を下ろした。 そして苦笑いをするの額に手を当て、不安げな表情をした。 「ここのところ勉強のしすぎなのですよ。 しかし、急に・・・ということはもしかしたら呪の類かもしれませんね。 休んで良くならないようなら陰陽寮の方に診ていただきましょうか。 橘少将殿に良い方を紹介してもらいましょう。・・・何ですか?」 急に嬉しそうに微笑んだに、鷹通は訝しげに問う。 「・・・心配してくれる人がいるのはいいなぁーって思っただけ」 「全く、自分の体は大事にしてください。とりあえず今日はゆっくり休むことです。 ・・・勉強など、やろうと思えばいつでもできるのですから」 「・・・うん、そうだね。・・・・・・おやすみ」 それから三日間、は一度も目を覚まさなかった。 2006/3/24 UP |