「殿の、ご様子は」 「・・・今日も静かに眠ったままですわ」 「・・・そうですか。昼ごろに、陰陽寮の方が診に来ていただけるそうです」 「このまま目を覚まさなかったら・・・!!」 「殿は、きっと目を覚ましますよ。・・・お気を確かに、叔母上」 昼前―― 陰陽師安倍泰明は藤原邸にいた。 最初は兄弟子が今回の件を承っていたのだが、 急の仕事で巡りめぐって泰明が担当することになったのだ。 「この者は――四神の神子だな」 「この子が・・・四神の神子!?・・・そんなこと、一言も」 「本人は気づいていないのかもしれぬ。 この者の持つ神力が少しずつ減ってきている。倒れてから何日経つ?」 「4日ですわ。泰明殿、この子は大丈夫なのでしょうか・・・」 「死ぬわけではない。・・・だが、このままでは目を覚ますまい。龍神の神子のもとに」 「龍神の神子、ですか」 「叔母上、ちょうど一週間ほど前に、龍神に選ばれた神子が京にいらっしゃったそうです」 「そのお方はどちらにいらっしゃるの?」 「土御門だそうですよ」 「・・・分かりました。この子と離れるのは辛いですが――泰明殿、よろしくお願いいたします」 「承知した。今日はこれから所用があるゆえ、明日改め伺いに参ろう」 「――赤染めの桜、ですか」 「ああ」 翌日、は泰明の迎えにより、桜と共に土御門に来ていた。 眠り続けるを泰明の式が抱え、桜はそれについて歩く。 のために宛がわれた部屋にを寝かせ、式は桜に微笑んだ。 「では私はこれで」 「ありがとうございます」 式が消えると、桜はの横に跪き、祈った。 「さま、どうか早く目を覚ましてくださいませ」 「わぁっ、綺麗な女の人・・・」 あかねは運ばれていくを見て、呟いた。 「誰だろう、藤姫ちゃんの知り合いかな?」 気になり後を追いかける。 部屋の中に入ったのか、見失ってあかねはきょろきょろと周りを見回した。 「――――・・・くださいませ」 声が聞こえてきた部屋を覗き込む。 「誰・・・!?」 あかねに気づいた桜が声を荒くすると、あかねは潔く部屋に入り、背筋を伸ばした。 「ごめんなさい、気になっちゃって・・・。私、元宮あかねです」 「こちらこそ、声を荒げてしまい・・・。桜と申します。藤原家に仕えていますわ。 これからこちらで、この方と共にお世話になります」 「えっと・・・この人は」 「さまと申されます。眠ったままでもう5日になりますの・・・」 「そうなんですか・・・。綺麗な人・・・」 あかねが桜の隣に腰を下ろす。 そしての頬に触れると、の瞼が微かに動いた。 それを見てあかねは嬉しそうに桜に言う。 「あれ、今動きませんでした?」 「いえ、私には・・・」 今度は両手で頬を包む。 すると、漆黒の瞳がゆっくりと開かれ、そしては微かな声を出した。 「・・・あなた、誰?」 2006/3/27 UP |