「ただいま、ちゃん!」
「おかえり、あかねちゃん」


よかった、何事もなかったようだ。

ちゃんと元気で動いてる。


は安心してあかねを迎える。
すると、後ろで友雅がため息をつきながら言葉を漏らした。

「鬼に襲われたというのに元気な神子殿だねぇ」
「鬼に?」

が訝しげにあかねを見ると、あかねは苦笑いをして頬を掻いた。

「う、うん・・・でもね、そのお蔭で八葉が一人見つかったんだよ!」
「そうなの・・・よかったわね」

先ほど感じた不安は、どうやら当たっていたようだった。 があかねの頭をぽんぽんと軽く叩いて笑うと、あかねはの手を引っ張り 「これからお話しましょ!」と言って、あかねの部屋にともに向かった。





は、ここにやってきてからまだ1日ではあったけれど、昨晩で早くもあかねとは打ち解け、 自分の役目も何となく理解しつつあった。
四神とは龍神に仕えるもの。
ならば四神の神子も、龍神の神子に仕えるものなのだろう、と。

自分の役目を果たさなければ、きっと自分の世界には帰れないのだろう ――いや、ずっとこの世界で生きていくにしても、自分の役目を果たすべきなのだろう。 は一晩考えて、そういう結論に達した。

は自分があかねにどう接すればいいのか迷いつつも、 とりあえずは当たり障りのないように接する。 何だか妹ができたような気分になっていた。





「八葉はどんな人だったの?」
「えっとね、藤原鷹通さんっていうの」
「鷹通・・・?」
「うん、冶部少丞なんだって」
「そう・・・、鷹通が・・・」
ちゃん、知り合い?」
「ええ。私の母上の、甥なの。私と母上に血の繋がりはないから従兄弟ではないけれど、家族みたいなもの」
「そうなんだ!鷹通さんて、優しい人だよね」
「そうね・・・。誰にでも優しい人だと思うわ」
「八葉が優しい人でよかった。怖い人だったらどうしようと思ってたの」

クスクスと二人で笑う。

「さあ、鬼に襲われたのなら疲れたでしょう。今日は休んだ方がいいわ」
「・・・うん、じゃあそうするね」
「おやすみ」
「うん、おやすみ」

あかねの部屋を出て、足早に歩く。
とはいえちゃんとした着物を着ているために、なかなか速さは出ないのだが。



「鷹通が、八葉ね・・・」



「気になるのかな?」


ぼーっとしていたところに友雅に話しかけられ、は一瞬驚き、そしてため息を吐いた。

「友雅殿・・・驚かさないでください」
「驚かせたつもりはないのだけれどね・・・。鷹通は、天の白虎だそうだよ」
「天の白虎ですか・・・」
「君の力は八葉のためにあるらしいね」
「多分そうなのでしょう。でも――どちらにしろ、四神を取り戻さないことには」
「そうだね。今の君は、神子殿の力で保っていると泰明から聞いたよ」
「1日程度なら大丈夫でしょうが、長くはあかねちゃんから――この屋敷から、離れることはできません。 四神を取り戻すためにも、早く八葉を見つけて欲しいですね」
「私も努力しよう。努力なんて言葉は、私には似合わないがね。 ――こんなところで立ち話もなんだ。今夜は麗しき姫君の局にお邪魔させていただこうかな」
「謹んでお断りさせていただきます」

すると、友雅の手がの頭に伸び、さらりとのまっすぐな漆黒の髪を指で梳かしていく。

「・・・!」
「そう警戒せずとも何もしないよ。今は、ね」
「・・・今まで幾人があなたに泣きを見たのでしょうね・・・」



困ったように言うを見てクスッと少し笑うと、友雅は「いい夢を」と言って去っていった。



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2006/4/8 UP