チュン、チュン・・・

「そう・・・分かったわ・・・・・・ありがとう」


「あれ、ちゃん、誰と喋ってるの?」


あかねの声に驚いて、の腕に止まっていた鳥が逃げていく。

「あかねちゃん」
「ごめんね、鳥さんとお話してたんだ」
「うん、私――ここ最近で動物の声が分かるようになってね」
「動物の?」
「ええ。多分、四神の役割の代わりにされてる、とかなんだと思うけれど」
「そうなんだ!すごい、いいなぁー・・・私も鳥さんとか、お話してみたい・・・」
「ふふ、あかねちゃん、今日はどうするの?」
「うーん・・・どうしようかなぁ」
「私、今日はちょっと調べたいことがあるの。だからちょっと外出するわね」
「え、外に出て平気なの?」
「ここ数日で十分神気を浴びて、大分調子がいいの。だから1日くらいは平気」
「そっか。じゃあ私は待ってるね」
「あまり頼久殿を心配させちゃ駄目よ」
「そんなことしないもーん」
「どうだか。じゃあ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい!」

くすくすと笑いながらは藤姫の部屋へ向かった。





「あんたに文句言われる筋合いはねぇんだ!俺があいつを好きで悪いのか? 八葉は神子を好きになったらいけないとかあるのかよ! 俺たちは元々この世界の人間じゃないんだ!龍神なんか関係あるか! ・・・詩紋っ、お前も何やってたんだ。あいつを守れっつったろ! いい加減あかねの後付いて回るだけじゃなくて自分で立ち回れ」

大声の後、藤姫の部屋からずかずかと天真が出てくる。 天真はの顔を見た後、一瞬気まずそうな表情をして、ついと顔を背けてしまった。 は部屋の入り口で、天真の後姿を眺めた。

「穏やかでないわね」

そしては、 先ほどの「この世界の人間じゃない」という言葉を頭の中で反芻していた。


――私と、同じなのね。天真殿もあかねちゃんも、詩紋殿も。


「あら、さま、どうなされたのです?」
「いえ、外出の許可を貰おうと思ってね」
「まあ!何かあったのですか?」
「不穏な噂を耳にしたので、確かめに行こうかと思うの」
「お体の方はいいんですの?」
「ええ、万全です」
「それにしても、一人は危険ですわ・・・」

頬に手を当てて心配そうにする藤姫に、友雅が名乗りを上げた。

「それなら私がお供しよう」
「・・・友雅殿が?」
「おや、私ではご不満かな」

間髪入れずにそう言われ、は心の中で、よく口の回る人だなぁと感心し、否定の言葉を述べた。

「いえ・・・今日は参内は――」
「今日は生憎と暇でね。構わないかな?姫君」
「では、よろしくお願いします。・・・用ついでに気分晴らしにでもなれば、 天真殿との諍いも減りましょう」
「おや、聞いていたのか」
「天真殿の声が大きすぎるのです」
「ふふ・・・手厳しいな、四神の遣いの姫君は。じゃあ藤姫、そういうことだ。行ってくるよ」
「行ってきます、藤姫」
「お気をつけて」





と友雅は土御門殿を出て、桂周辺まで足を運んでいた。

殿、ここまで出てきて・・・一体何があったというのかね?」
「・・・鳥たちが、妙な噂を運んできました」
「鳥が?」
「ええ・・・。こっちに来てから、動物の言葉が分かるようになったんです」
「なるほどね。それで・・・妙な噂というのは?」
「龍神の神子の噂です。・・・それも、あかねちゃんのことではないらしいんです」
「神子殿ではない神子・・・龍神の神子を騙る姫君でも、現れたのかい」
「友雅殿は物分りがよくて助かります」
「偽の神子、ねぇ」
「それがあながち偽者とも言い切れないんですよね・・・ 穢れを祓うというのは一般の女の子にはできない芸当でしょう?」
「なかなか興味深いね」





その後、2人は時間をかけて桂を回ったけれど、結局手がかりは見つからなかった。

「人に聞いても駄目ってことは、ここまではまだ来てないのかな」
「日にちが悪かったのかもしれませんね。・・・出直します」
「もうじき日も暮れるころだろう。随分長く屋敷から離れているけれど、大丈夫かい?」
「土御門までなら・・・なんとか力も持ちましょう」
「まぁ無理しないことだ。辛くなったら、いつでも言うんだよ。私がおぶってあげよう」

はありがとうございます、と言いかけて口を結び、眉を顰めた。 友雅はの鋭い視線も何のその、手を口元に当てて楽しそうに微笑んでいる。 いつものことか、と諦めたように小さくため息を吐くと、 は行きましょう、と友雅を促し帰路に着いた。



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2006/4/13 UP