「・・・・・・イッキ?何してんの?」

朝、は怪しいものを見るような表情で、イッキに尋ねた。 目の前には、よぼよぼの老人のように背中を丸めて歩くイッキ。
「そういや昨日の夜夕飯のあとすぐ部屋に行ってたっけな・・・。 昨日の夜にリカ姉にハンディアンカー付けられたんだよ」
「ハンディアンカーって・・・鉛の?」
「ああ」

(――リカ姉も思い切ったことするなぁ・・・)

「リカ姉は?」
「昼には巡業戻るって」
「そ。んじゃ、先行くから」
「コラァァッ、!!裏切り者め!!下僕なら下僕らしく俺様の手助けを・・」
「死ね」

は、拳をがつっと一発イッキの顔面に入れて、黙らせた。 そして蹲るイッキを無視して登校したのだった。



学校に着いたはカバンを教室に置くと、朝礼が始まる前に屋上へ向かった。

「ちょっと〜?もうすぐ先生来るよぉ」
「保健室いるって言っといてー」

後ろに向かって手をひらひらと振り、階段を上った。 屋上に着くと、更にはしごを上って給水タンクの横にゴロンと横になる。

(――早く手紙出さなきゃ)

はそのまま目を閉じた。





「すいませーん、コレ、エアメールでお願いしまぁす」
「はい、お預かりします」

放課後、レイは郵便局に行くと昨日書いた手紙を出した。
お金をきっかりおつりが出ないように出して、満足げに郵便局を後にした。

「――・・・もう春休みかぁ・・・」

結局あの後授業は全部サボってしまったが、放課後迎えに来たリンゴが、 今週末終業式だということを言っていた。 自慢にも何もならないが、は学校の予定表は見ない主義なので、 言われるまで気づかなかったから素直に驚いた。
もしかしたら、この春休み中にイギリスに行くことになるかもしれないし、 場合によっては「留学」ということにして帰ってこないかもしれない。 一寸先は闇――そこまでではないかもしれないが、この先何が起こるか分からない。
正直、はこの場所にいたい気持ちもあったけれど、イギリスに帰りたい気持ちも強かった。 そして、何よりも長年会っていない恋人に会いたかった。 ――もしかしたら自分が死んだと思われている間に新しい恋人を作っているかもしれなかったけれど。








そして5日後。

「イッキ―――どうだー?こんなもん?」
「だからまちがってるっつてんだろ!!そこ!1本線多い多い!!小学生かよこのやろう!
 ブッチャ!テメーも!!どこまで行く気だコラアッ!!」
「春体みって・・・」
カズとブッチャとオニギリで、「ワーイ 春体みだ」と書いた後は、
小烏丸の咢を除くメンバーで競争をすることになった。

「ジンジャエール、烏龍茶、レモンウォーター、コーヒー牛乳、栗ジュースマロンの実、 梅こぶ茶(果肉入り)・・・ま、基本はこんなもんだよな・・・カズ!」
「生玉子」
「うぉぉっ、やっぱりキター!」
「次ブッチャ」
「焼肉のタレ、ばんさんか○」
「つーかイキナリ一線越えやがった!」
「しかも平然と!!」
「マヨネーズ(からし入り)」
「ラー油(カキ風味)」
「・・・うっぷ、見てるだけで気持ち悪いんだけど」

一つのコップに色んなものを入れていく。・・・正に闇鍋状態。 は見ているだけで吐きそうになった。

「ホントにコレ飲むの?」
「当たり前だ!よし、みんなスタート位置に着け〜」

エミリがコインを投げて、地面に落ちる音と共に、一斉に走り出す。

「わかってんなテメーラ!!ドベはさっきの特製ウルトラデンジャースーパーブレンドドリンク 一気飲みだぞゴルアッ!!」
「ま、誰が飲むかは大体わかってんけどな」
「イッキ遅ぉい」
「えっ!?あれっ!?
 ば、ばかなー!!カズとブッチャとはともかく、なぜオニギリまで・・・」
「フッ・・・愚かな・・・!!・・・・・・ぬっはー!」
「させるかよブタッ!」
「私だって負けないわよ」

一瞬カズと、ブッチャを抜いたオニギリを更に抜き返して、カズとが先頭に立った。 ゴールに着いたのは、ほぼ同時だった。

「うー惜しいっ!また引き分けかぁ」
「今度こそ負けねぇっ!」
「「その前に・・・」」

やっとゴールしたイッキをブッチャが抑え、カズがさっきのドリンクを無理矢理飲ませる。 たちが最後の一滴まで飲ませようとしているときに、リンゴたちの元には 春休みの学校にはとても不自然な、ひとりの客人がやってきていた。





「・・・Excuse me?」
「えっ・・・って?ハヒ!?」

そこにいたのは、黒のシャツに黒のズボン、頭の先からつま先まで、肌を除けば全て黒の男性だった。

「リンゴちゃん知り合い?」
「まさか!!」
「ってか外人だよね・・・この人」

セブルスは目の前で繰り広げられている光景――リンゴとエミリと弥生が小声でこそこそ話をしている ――にしばし戸惑った。 固まったままでいると、リンゴが思い切って声を掛けた。

「えっと・・・Whatじゃなくて・・・Who are you?」
「I'm Severus Snape.Do you know・・・」
「早すぎて全然分かんないよぉっ」
「何か用ですか?って英語で何ていうの!?」

言葉を続けようとするセブルスに、混乱する3人組。

「確かって英語得意だったよね!?代わりに聞いてもらおうよ!」
「うん。・・・ちゃ――んっ!」

リンゴが大きい声を出しながら、の近くに走っていく。
エミリから発せられた、『』という言葉にセブルスが反応した。 きっとこの挙動不審な三人組はの知り合いなのだろう。 そして自分たちの代わりにを呼んでくれるに違いない。

「何ー?」

はイッキの口を開かせながら、顔を向けずにリンゴに聞いた。

「何かね、外人の人が来てるの!ちゃん英語話せるよね?」
「分かった。ちょっと待ってて――」
「次もやるから早く帰って来いよ」
「ひとりでやってろ」


はリンゴと、エミリたちの元に走り出した。
顔を向けるとそこにいたのは春なのに黒ずくめで立っている、背の高い男。

「・・・セブルス?」
ちゃん、知り合い?」
「・・・うん」

走るスピードがだんだんとゆっくりになっていく。 セブルスがの方を向き、驚くような表情になり、次第に微笑んだ。 は一瞬泣きそうな表情になったが、再度A.Tのスピードを上げて、セブルスに思い切り抱きついた。

『セブルス・・・久しぶり』
『ああ・・・は10年前からあまり変わっていないな』
『セブルスは老けたね』

目の前で抱き合いながら交わされる英語の会話に付いていけないリンゴとエミリと弥生。 そしてが抱き合っているという事実にショックを隠せないイッキたち。

『ダンブルドア先生に手紙を出したけど、まさかセブルスが来るなんて思わなかったわ』
『今日の朝にふくろう便が届いてな』
『そう・・・・・・会いたかった』
『我輩もだ』

そしては涙を流しながら、しばしセブルスのぬくもりを感じていると、 セブルスが場所を変えよう、と切り出した。

「Yes...リンゴ、今日私は早退するね。もしかしたら夜に長屋にいないかもしれない。夕飯は先に食べてていいからね」
「うん、分かった・・・けど、大丈夫?」
「大丈夫。心配しないで」

は涙を拭ってからイッキたちの方を向いた。

「イッキ――!!今日私早退ね――!」
「なぬっ!」

そしてイッキの返事を聞かないうちに、セブルスの手を取り、歩き出した。
手を繋いで歩くのも10年ぶりだ。

、何て言ったんだ?』
『今日は早退するって。あと家に帰らないかもって言ったの』
『ほう、帰る気がないと?』
『あら、10年ぶりに会った私を置いてイギリスに帰るの?』

クスクスとが笑うと、セブルスが口角を少し上げた。



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2006/2/5 UP