本日2回に渡り、昔の長話をしたせいで、は疲れ果てていた。 彼らに全てを語っても理解してくれないだろうから、したのは大まかな説明だけだったけれど。 掻い摘んで説明し、2時間後にはリンゴたちには理解できてもらえたようで、 はほっとした。 イッキはともかくリンゴや蜜柑、ウメに亜紀人は物分りがいい。 あまり手間が掛からなくてよかった、と。

ちゃん・・・。イッキそのまんまだよ・・・?」
「煩くなくていいと思う」
「俺も賛成」
「僕は寝るねー。おやすみ!」
「「おやすみ」」
「おやすみぃ」

おずおずと言うリンゴに無情に言うと蜜柑。 2時間の長丁場による説明に疲れた亜紀人は、早々に自室へと戻っていった。

「あー疲れたー・・・。久しぶりに元気爆発薬が飲みたいわ・・・」
「元気爆発薬?」
「飲むとね、元気いっぱいになるんだけど耳から蒸気が噴き出すの。機関車みたいに」
「・・・ソレはちょっとイヤかも・・」
「っていうかセブルス、何やってるの?さっき出たり入ったりしてからカサカサカサカサって」
「薬草倉庫の在庫の補充の書類だ」
「・・・今日くらい休めばいいのに」





イッキは2時間も喋れず、ジタバタしても黙殺されるため、イライラが募ってきていた。
そこでイッキの目にの杖が映った。

確かは俺に何かをする前にあの細長い棒を構えていなかったか? 棒をわざわざスネイプとかいうヤツに持ってこさせてたってことは、アレがなきゃ駄目なんだ。 つーことは、アレを壊せば俺は元に戻るわけだ!

そこまで考えると、イッキは立ち上がり、 テーブルの上に置いてあるの杖をがしっと掴んだ。

「ちょっと!イッキ!返して・・・!私の杖は折れやすいの・・・っ!」



ボキッ



無情にも、杖が折れた音は茶の間の中で大きく響いた。
イッキは杖を折ってから声を出そうとしたけれど、先ほどと何も変わらなかった。 口をパクパクとさせるけれど、出てくるのは息だけ。 なんでだろう、とイッキが考えていると、茶の間にある食器や棚、家具がガタガタと揺れだした。

「なんだ!?」
「ポルターガイスト!?」
「・・・!」

はいつの間にか立ち上がり、 イッキが今まで見たことのない恐ろしい形相でイッキのことを睨みつけていた。 イッキが一歩後ずさりするごとに、コップや皿がどんどん割れていく。 その被害はもはや茶の間を通り越して、台所まで及んでいた。

、落ち着くんだ!」

セブルスはの肩を掴み、を落ち着かせようとするけれど効果は全くなかった。 仕方無しにイッキにセブルスが近づくと、イッキはセブルスの顔を見て、 とセブルスがいない方向へと更に後ずさりした。

「小僧!杖を渡すんだ!」

半ばひったくるようにして杖を取ると、が搾るように低い声を出した。

「イッキのバカ・・・。最低・・・っ」

そしては、周りの空気に溶け込むようにして消えていった。





「おい!バカイッキ!お前食器代とか全部弁償しろよ!」
「な、何だよ今の・・・」
ちゃん消えちゃったよ!?」
「まさか、死んじゃったんでしか!?」

混乱している4人に向かって――その中にいるイッキに向かって、セブルスは蔑みの視線を送った。

「何と愚かな・・・。貴様、の話を寸分も聞いていなかったのか? と貴様とは生きている場所が違うのだ。 なぜこのような輩と共に暮らしていたのか・・・理解に苦しむな。 ・・・杖とは魔法使いにとって無くてはならないもの。 にとっては命の次に大切なものだろう。――この杖は母親の形見だったのだから」

すると全員の、息を飲む音が聞こえた。

「杖は魔力を持っている。魔力を持っているものは魔法では直せない。 怒りによって彼女の魔力を増幅させてくれたことは礼を言おう――最低な方法だったがな」

セブルスはの杖をポケットに入れ、自分の杖を取り出した。

レパロ!

セブルスが呪文を唱えると、たちまち壊れたコップや茶碗、皿などが元通りになった。

「あんた、が消えたのに何でそんな普通にしていられるんだ!? 仮にも恋人だろ?」
「心配することはない。魔力が戻ったばかりならば遠くに「姿現し」することはできないだろう」

先ほどの現象は、「姿くらまし」。
は昔から、何故か他人とは違い、「姿くらまし」「姿現し」するときに音が鳴らない体質だった。 それ故隠密の潜入捜査などに向いているため、一時期魔法省からの勧誘もきていたほどだった。

「じゃぁちゃんは無事なんですね?」
「ああ。だが杖を失ったということは――何者かに襲われたとしたら抵抗する術はないだろうな」

もっとも、そんなことさせはしないが。そう呟いてから、セブルスはイッキを細目で一睨みし、茶の間を後にした。





バシッ





「・・・セブルス?」
、大丈夫か」

セブルスが公園のベンチに腰掛けていたに近寄ると、 は弱弱しく微笑んだ。セブルスはにこんな表情をさせたイッキを許せなかったし、許そうとも思えなかった。

「うん・・・大丈夫。杖、取り返してくれたんだね、ありがとう」
「いや――それよりも、が構わなければだが・・・ 魔力も戻ったことだ、杖を買いに明日ダイアゴン横丁に行かないか。 まだ復活は先とはいえ、日本にいても何が起こるか分からん。杖が無いままの状態では心配だ」
「そうね。・・・いえ、イギリスに数週間ほど滞在しようかしら――あんなに暴れちゃって、しかも逃げ出して・・・。 みんなに見せる顔がないわ。イッキにもなんだか会いたくないし・・・」

が顔を伏せると、セブルスはを抱きしめた。

(――本来なら仲直りさせるべきなのだろうが・・・。自分はとことんに甘いな)

「これからホグズミードに行くか。今なら・・・あちらは昼時だろう」
「そうするわ。久しぶりのホグワーツね。でも・・・いきなり魔力が増えて、今、すごく不安定なの・・・。 一気にイギリスまで行くのはまだ危険だから、小刻みに「姿現し」するわ。先に行ってて」
「同時に行けば大丈夫なのではないか?」
「いいから!これ以上迷惑かけたくないの」
「・・・分かった。ホグズミードの三本の箒で――」



バシッ



は人知れずため息をついた。



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2006/2/11 UP