は「姿現し」と「姿くらまし」を3回ほど繰り返し、 ホグズミードにやってきた。 久しぶりのホグズミードは10年ぶりだけあって、新しい店が何軒か出来ていたが、 概観はそれほど変わっていなかった。

は「姿現し」の途中で居心地の悪さで裸足のままなことに気づき、 ホグズミードに着くなり早くセブルスと落ち合いたいと、 土で汚れないように足に魔法を掛けようとしたが、杖を取り出してから 杖が折れてしまったことを思い出し、軽くため息を吐いて三本の箒に急いだ。

「まぁ!あなた、なの!?」
「久しぶりね、マダム」

店内に入るとマダム・ロスメルタが目ざとくに気づき、カウンターから出てに近づいた。
がはにかむように笑うと、 マダム・ロスメルタはが店に姿を現したことを喜んでいいのか、 なぜ今まで連絡を寄越さなかったのか問いただせばいいのか少しばかり戸惑った後、 困ったように微笑んで、ハグをした。

「あなた、今までどこにいたの? みんなは死んだって思ってたみたいだったけど、私ははきっと生きてるってずっと信じてたわ」
「ありがとう。日本という島国にいたのよ・・・いろいろあってね」
「そう。詳しい話は後で聞かせて頂戴ね。さぁ、スネイプ先生がお待ちよ!」

はマダム・ロスメルタに軽くお礼を言うと、 セブルスの元に足を進めた。


「セブルス、お待たせ」
「遅い」
「ごめんごめん。ねぇ、もうホグワーツに行くの? ・・・途中で裸足だったことに気づいて・・・先に家に行きたいんだけど・・・」
「我輩はもとよりそのつもりだが?靴よりまず、着替えてもらわなくては。 ・・・まさか、その格好のままホグワーツに行くつもりだったのではないだろうな?」
「え、ダメ?」

セブルスは大げさにため息をついた。

「ホグワーツに行くというのに、Tシャツとハーフパンツはないだろう・・・行くぞ」





「セブルス・・・ねえ、これ・・・」

セブルスが目指す先に、最後に見たときと全く変わっていない自分の店を見つけ、 は呆然とした声を出した。
ドライフラワーと薬品瓶が飾ってあるショーウィンドウ。 ドアに掛かる「CLOSED」の看板。 窓からのぞく薬品棚。 店先に置いてあるプランターまで、全然変わっていない。
「早く中に入りたまえ」
「う、うん・・・」

セブルスが鍵を開け、が中に入ると、店の奥でチリリリリン、とベルのなる音が聞こえた。

「中も全然変わってない・・・」
「早く来い」

セブルスはが薬品棚の前で立ちすくんでいる間に、 既に店の奥の方に行っていては急いで奥へ行った。 セブルスは奥のドアの前でを待っていた。
そうだ、この扉を開ければ、自宅のリビングに繋がっている。
は感動のあまり、 何を言葉にすればいいのか分からなくなった。

部屋の中に入ると、はセブルスに抱きついた。

「・・・ありがとう、お店も家も、そのままにしておいてくれてたのね。 しかも掃除まで・・・」
「敷地の大半はしもべ妖精がやったようなものだ。我輩は温室を管理していたに過ぎない。 ・・・何も、が生きていると信じてたのはマダム・ロスメルタだけではないからな」

セブルスはにキスを一つ落とし、早く着替えてきたまえ、 と一言言うと、階段をとことこと急ぎ足で上っていくを少し見つめてから、 ゆっくりとソファに身を沈めた。





ダンブルドアにの話を聞かされたとき、セブルスは柄にもなく動揺した。 自分から「行かせて欲しい」と申し出たときのダンブルドアの優しげな表情を、 セブルスは一生忘れはしないだろう。

この10年間、セブルスはがいないことの喪失感を女々しくもずっと感じていた。
亡骸が見つかっていない以上、まだ死んではいないはずだ。生きているに違いない。 何らかの理由で連絡する手段がないのだろう、と自分に言い聞かせてはいたものの、 やはり諦めかかってはいたのだ。そこに舞い込んできた、唐突な知らせ。 しかも内容は闇の帝王についてのものだった。
セブルスは一番聞きたかったことをに聞けていなかった。 なぜ、自分に連絡することができなかったのか、と。 の実家の本家が関係していたのかもしれないが、 全ては憶測でしかなかった。
しかし、今のセブルスにとっては、がちゃんと生きていたという事実、 そしてと結婚し、 このまま共に生活できるということが幸せそのものだった。

ダンブルドアは教師として、あるいは何らかの形で――をホグワーツに迎えたいと言う。 そうなれば10年前にを守りきれなかった分、 その償いも含め、をこの手で守ることが出来るだろう。 ホグワーツにいれば安全かもしれないが、念には念を入れるべきだ。 闇の帝王の復活は近い。

「セブルス、お待たせ」

セブルスが感傷に浸っていると、着替えを終えたが階段を下りてきた。
下りてくるを見て、セブルスは思わず目を見開いた。

セブルスとお揃いの真っ黒で長めのローブに、白のシンプルなワンピース、 生成り色の荒い編み目のカーディガン、そして黒のパンプス。 それはホグワーツを卒業してから、が好んでしていた服装だった。 そして、セブルスとが最後に会った日も、この服だった。

「・・・昔に戻ったようだな」
「10年前にタイムスリップしちゃったのかもね?」

がクスクスと笑うと、セブルスは軽く鼻で笑い、 エスコートするかの如くレイに手を差し出した。 は当然のようにその手を取り「さ、行きましょうか」と言い、 ホグワーツに向け、愛しの我が家を後にした。



←back | next→


2006/2/14 UP
舞台がイギリスのときは、『』→「」になりますが、英語でしゃべってます。
あと、語り部分も名前がカタカナになりますがご了承ください(汗