結局あのあと、政宗が(多分ちょっとは)気遣ってくれたため、私は普通にしていることができた。 (政宗が私のコートを見て「暑いだろ、その上着脱いだらどうだ?」と言ったので素直に脱いだら、 タンクトップに短パンという薄着だったので、真田さんがいきなり「破廉恥でござるぞぉぉぉっ!」 と騒ぎ立ててびっくりした。)(そのあと政宗が真田さんに、 「うるせぇ!お前に用はねぇんだ、早く部屋に行け!」と怒鳴っていた)

「じゃぁあとで新しい着物を届けさせる。今日は休め」
「かしこまりました」

という会話を済ませ、私はその場を離れて、今ここにいる。





・・・女中さんの部屋に。





なぜ私がここにいるかと言えば元凶は政宗で、政宗に頼まれ着物を持ってきた女中さんが、 その着物を私に軽く着せると、「この色は様に合いませんわ!」と抜かしたのだ。 そして、あろうことか自室に連れてきて、更に2人の女中さんを呼び、 ここに「大」着せ替え大会勃発。・・・非常に不本意なことに。 私はというと、ずっと両手を広げて突っ立っているまま。 19歳になった私は、こんなことをされても嬉しくも楽しくも何ともない。 ガキならまだしも、19ですよ、じゅーきゅー。

「まぁ、この色なら素敵じゃございません?」
「ああ、きっと様にお合いになるわ!」
「ねぇ、皐月さん、これなんかもいかがでしょう」
「では、さっそく!」

さっきからずっとこんな感じなんです。誰か助けて。





そういえば、とふと思い出す。
私が16、7の頃だったか――それともついこの前のことだったか――定かではないけれど、 やはりこうやって着せ替えをされて遊ばれた。
《赤き征裁》こと《人類最強》哀川潤に。
あの時は着物じゃなくて、なぜかゴスロリばっかだけど、・・・まぁ、大した違いはないでしょう。 ・・・多分。




勇気を振り絞って、女中さんに話しかける。

「あのー・・・。黒の着物ってないですか」
「黒ですか・・・?黒ねぇ・・・。ああ!ありますわ!お待ち下さい」

女中さんの一人が、パンと両手を合わせて走り去る。
残された2人と私はただ立っているという虚しい状況。

私は黒が好きだ。
どのくらい好きかと聞かれたら困るけれど、仕事着のノースリーブコートとアームウォーマー、 タンクトップと短パンとブーツと手袋を全て黒で合わせていて、 尚且つ現代では珍しく髪も黒のまま。 (と言っても私の周りに赤やら青やら奇抜な髪の連中がいるから珍しい、というのもあるけれど)
黒は他の色を際立てるから好き。
黒は――何にも染まることもないから好き。

「お待たせしました!随分前に仕舞っていたものですから・・・。 これならきっと、様にお合いになりますわ」

彼女が手にしていたのは、黒の生地に、赤と白と紫で一羽の蝶が描かれている、 まさに私の好みドンピシャな絵柄だった。

「これ、いただけますか?」
「気に入っていただけたなら嬉しいですわ!」
「こちらの着物も着てやってくださいませ!」





3人がかりで着付けてもらうのだけれど、着物ってこんなに動きづらいものなのか。 いつだったかどこぞの澪標の双子が法衣姿でお仕事しているのを見たけれど、 彼女達は慣れているからこそあんなに動けるのかな?
っていうか髪の毛とかそのままでいいのだろうか。 普通にお仕事帰りだから髪の毛アップにしてるんだけど。


ギュッと腹を締められ、「さぁ出来ましたよ」と声をかけられ、鏡を見る。

・・・着物姿も意外と似合うじゃん、私。



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2006/8/10 UP
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