「そうか」

政宗から返ってきた言葉はこの一言だけで、逆にあっけないような感じがした。

「――、あとは、お前の武器についてだとか、 契約に関してだとか聞きたいんだが・・・今はいい。あとから聞くことにする」
「え?別に今でもいいじゃないんですか?」
「いや・・・」
「じゃぁ軽くだけ説明しちゃいますよ。 人間とは一度気になったものに対してはとてつもない貪欲さを発揮するものですからね。 ――まずは契約。闇口の主従の契約は、闇口の者が結び、 解除は主がもう必要ないと思ったときにいつでも出来ます。 そして武器。ひとつ目は『曲絃糸』といいます。曲がる絃の糸です。 それから小太刀。これには名前はついていないんですが、 特殊大型ナイフ『月牙』と併せて 《死の舞》 ダンスオブデス と呼ばれることもあります。・・・これくらいですかね」
「――ああ、ありがとな」



政宗はそう言うと、武田さんたちに「もういいだろ?解散だ、解散」 と言って彼らを追い払おうと手をひらひらと振る。 私は特に何も言われていないため、そのまま残る。 私と政宗以外の4人が立ち上がったところで、政宗は口を開いた。



「――闇口は奴隷だ、つってたな」
「はい」
「奴隷なら、ご主人様の言うことは何でも聞けるんだよなぁ?」

意地悪げに紡ぎだされた言葉とは裏腹に、その瞳はとても真剣で、思わず魅入ってしまった。

「伊達殿!貴方ともあろうお方がそのような言葉――某、見損なったでござる」
「伊達の旦那、いくらなんでもそういう言い方はないんじゃない?」

しかし、真田さんと猿飛さんはその言葉に振り向き、政宗に突っかかった。 片倉さんと武田さんは無言でいる。



「Shut up!うるせぇなぁ。てめぇらは黙ってろ。 ――なぁ、さっきお前は感情を捨てたって言ったな? だったらその捨てた感情を拾って来い。 俺を主と認めたなら、これからは俺の為に生きろ。 別に俺は傷の舐め合いをするつもりはねぇ・・・――だが、これは命令だ。 今のお前のまま死ぬのは許さない。俺より先に死ぬのは許さない。Do you understand?」



その言葉に、私の思考は停止しかけた。


感情を拾う?
政宗の為に生きる?


政宗のことは、嫌いじゃ、ない。
けれど、私は私が政宗のことをどう思っているのか、その感情を私は知らない。





「別に難しいことを言ってるわけじゃねぇ」
「――十分難しいですよ・・・」
「難しくなんかない。拾ってこれねぇなら、これから覚えればいい。」
「――努力、します」
「ずっとこの城にいるんだろう? 下僕が主を捨てて故郷へ帰るなんざ、滑稽過ぎて笑えねぇ話だぜ」





なんなんだ、この人は。

私は忌み嫌われる《モノ》で――
異端児で、禁忌で、殺人鬼で、暗殺者で、それに――





――ああ、この人は『器』がでかいのか。





それこそ哀川潤並みの器量のでかさと、心の強さを持ってるんだ。





この人のためなら、ありのままの自分を生きていけるのかもしれない・・・





この人なら、きっと――私という存在を受け入れてくれる。



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2006/8/8 UP
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