追いかけっこをいくらか続け、飽きてきたところで、私は幸村さんを追うのをやめた。 (もちろん最初から殺す気なんかないし、政宗たちもその辺は分かっているだろう。 けど、やっぱりお仕置きは必要だと思うんですよ。 ほら、犬ってちょっと痛い思いをさせて躾をするって言うでしょ?)
そして伝令兵と思わしき兵を2人発見した。

へばっている幸村さんを放置して、走っていく兵をこそこそと追っかける。
着いたところは、やっぱり政宗の元だった。

部屋の中を遠目に除くと、机のところに政宗が座っていて、部屋の入り口に片倉さんが控えていた。


「政宗さま、お伝えします!」
「おう、What's the matter?」
「上杉が北方の一揆を鎮圧し、またもや戦の準備をしている模様です!」
「・・・大方、武田と派手にやって疲れてる俺たちを叩こうって魂胆だろうな」
「いかがいたしますか、政宗さま」
「兵たちが疲れてんのは事実だ。仕方ねぇ、少数精鋭部隊で上杉に対抗する。 潰される前に潰さねぇとな」
「そうですね。・・・噂なのですが、上杉軍には優れた策士がいるそうですよ」
「策士、ねぇ」



策士、その言葉に私は妙な引っ掛かりを覚えた。
知り合いに《策師》と呼ばれる人がいるから、だとは思うんだけど。 まぁ戦国時代なんだし、軍師や策士やらいるのは当たり前か。 軍師、といえば諸葛亮孔明か。ん?諸葛亮は軍略家だっけ?まぁ大した違いはないよ。 軍略家も、軍師も、策士も。どうやって相手に勝つかを考えているだけ。

正々堂々と、不意打ち。

ああ、彼女は元気にしてるのかな。あのフラフラのゆらゆら少女も。


「おい、。そこにいるんだろ?Come here!」
「はいはい、っと」

政宗は気配に敏感なんだろうか。よく気づいたなー。





。聞いていたとは思うが――」
「ねぇねぇ、上杉って、上杉謙信?」
「That's right.・・・また戦だが、明日か明後日には出発しようと思う」
「それはまた、休む暇もない、ってやつだなー」
「だから、少数で行く。ざっと2、30人ってとこだ。来るな?」
「もっちろん。またとない機会だし」
「だが、できるだけ武将――特に大将は殺すなよ。伊達には優れた武将が揃っているとはいえ、 天下を取るにはまだ、兵だけじゃなく武将も必要だ」
「ふんふん。なるほど。意外にも政宗は野心家ってわけだ」
「・・・野心家、そうかもな。ただ、俺は早くこの戦国の乱世を終わらせたい――それだけだ」
「まぁ、私は政宗のモノだし、どんな理由にしろ付いていきますよ」
「Thank you.さぁ小十郎、連れて行く兵の選別はお前に任せた。は幸村たちに準備するよう伝えてくれ。OK?」
「了解ですよー」
「かしこまりました」



私と片倉さんは政宗の部屋を出て、途中まで一緒に歩く。
多分もうちょっとしたところに幸村さんが転がってると思うから。

「此度の戦、精鋭とはいえ大丈夫でしょうか。 上杉には策士がいると聞いていますし、多少は不安は禁じえませんね」
「まぁ、私がいますし、安心していいですよ。片倉さん」
「闇口殿、・・・どうか、政宗様と同じようにお呼びください。片倉とは呼ばれ慣れていないもので」
「小十郎さん、ね。私も闇口ってのは嫌かも。忌むべきもの、ですしね」
「では、殿。私は此方に向かいますゆえ」
「はい。ではまた。・・・・・・あ、幸村さん発見」



彼は廊下のど真ん中で大の字、詰まるところ行く手を阻む障害物になっていた。
近寄ってしゃがみ込み、指でツンツンと突き、幸村さんを起こした。

「邪魔ですよ、そんなところにいちゃ」
「うぉぅ!殿!」
「政宗がね、上杉と戦をするから準備をしろ、だそうですよ」
「上杉・・・お館様の宿敵、謙信殿がいらっしゃるな!早速!お館さまぁぁぁぁっ!」
「・・・・・・やっぱりこうなるのか。・・・佐助さん?いるんでしょ」

天井を見つめて話しかけると、独りでに天井の板が外れ、そこから佐助さんが出てきた。
神出鬼没で従順な忍らしく、 幸村さんがいるところなら多分いるんだろうなぁと予測を付けてみたんだけど、 どうやら見事正解のようだった。 まぁハズレならハズレで変な独り言で済ませるつもりだったんだけど。 ・・・きっと自分の主がいつ起きるのか観察してたんだろうなぁ。

「よく分かったねぇ」
「さすがに自分の主君が倒れてるのにずっと放置してるわけないなと思いまして」
「ま、半分当たりってトコかな。 それにしても、上杉との戦かー。厄介なことにならなきゃいいけど」

それはきっと、小十郎さんも言ってた、『優れた策士』のこと。
私はふとある考えを思いつき、それを、心に秘めたまま仕舞いこんだ。



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2006/8/15 UP
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