「ここで逢ったのも何かの縁でしょう。お助けします」





私はそこで言葉を切り、相手の了承も得ないまま腰と背中に手を回し、


・・・枝の上に飛び乗った。


最初は驚いていたようだけど、太い枝を狙って移動していると、だいぶ慣れたようだった。

移動し始めて30秒後くらい。
誰も来なさそうな陰気な場所に着くと、彼に回していた手を離して解放した。
あ、ちょっとフラフラしてる。

「後ろ向きで移動するの、マズかったですか」
「・・・Oh・・・気にすんな。そういやまだ名乗ってなかったな。俺は奥州筆頭、伊達政宗」
「だ、て・・・まさむね?」

ちょっとびっくり。いや、かなり。

伊達政宗ってアレでしょ、仙台の。牛タンがおいしくて――じゃなくて。
・・・あぁ、やっぱり戦国時代っぽい。 しかも武将どころか大将ですか。 可能性を見事に現実にしてくれたよ。はは。 でもまだ『夢』っていう可能性も・・・残ってないか。コレじゃぁ。

私がまたもやぼーっとしている間に、伊達さんは自分で止血をしていた。 あらかた終わったあたりで、伊達さんが口を開く。

「Thank you.・・・お陰で逃げ切れたぜ。さすがにこの傷のまま行くのはマズいからな」
「・・・You're welcome.恩は返さないと気がすまない性分ですから」
「・・・お前、異国語が分かるのか?」
「ええ、異世界から来た人間ですから」
「異世界・・・だと?」
「ここではない、時空です」
「へぇ、面白いじゃねぇか。気に入った」

気に入られてしまいました。つーかそんなに簡単に信じていいのか。 まぁこの服装じゃぁ変に思われてもしょうがないけど。だって仕事着のまんまだし。
そこで、ひとつの提案を思いつく。

私には不利でもあるかもしれないけど、この人なら大丈夫そうだ。なんとなく。勘だけど。 それに、右も左も分からない世界で生きていくには必要かもしれない。

そうするべき。
そうせざるを得ない。

・・・ま、どっちでもいいか。





「ねぇ、伊達さん。契約をしませんか」


「契約、だと?」


「ええ。『闇口』の契約です。あなたには百利あって一害もない契約です」
「Ah・・・どんな契約かにもよるな」
「簡単に説明しましょうか。私の名字は『闇口』ですね。 私の世界では裏の人間が忌み嫌う『闇口』です。『殺し名』七つのうちの、上から二番目。 己がこれと決めた特定個人を主君として忠誠を誓い、主の為に事務的に殺す《暗殺者》。 単純なことですよ。私があなたに忠誠を誓う代わりに、あなたは私にご飯を食べさせる。それだけ」
「それだけ、だと?」
「それだけ、です。 ああ――二つ名があったほうが私のことを理解していただけるかもしれませんね。
《瞬間殺戮》 キルモメンツ 《月の裏側》 アザーサイドオブムーン 《死の舞》 ダンスオブデス 《嘆きの悪魔》 グリーフィンデビル 。二つ名だけは異様に多いんですが、私の言いたいことはただひとつ。
女だからってなめない方がいいってことです」

あれ?話がズレた?

「まぁ、いいや。 あなたに残されている道は、私と契約するかこのまま死ぬかのどちらかひとつです」
「HA・・・!上等じゃねぇか。その話、乗ってやるよ」
「ありがとうございます」

一応営業スマイルで、満面の笑みを作っておく。
ちなみにこれ、実は必殺技だったりするんだけど。


「さぁ――じっとしていてくださいね。じゃないと私が刺しちゃいますよ?

貴兄が乾きしときには我が血を与え、貴兄が飢えしときには我が肉を与え、 貴兄の罪は我が贖い、貴兄の咎は我が償い、貴兄の業は我が背負い、 貴兄の疫は我が請け負い、我が誉れの全てを貴兄に奉納し、 防壁として貴兄と共に歩き、貴兄の喜びを共に喜び、貴兄の悲しみを共に悲しみ、 斥候として貴兄と共に生き、貴兄の疲弊した折には全身でもってこれを支え、 この手は貴兄の手となり獲物を取り、この脚は貴兄の脚となり地を駆け、 この目は貴兄の目となり敵を捉え、この全力をもって貴兄の情欲を満たし、 この全霊を持って貴兄に奉仕し、貴兄のために名を捨て、貴兄のために誇りを捨て、 貴兄のために理念を捨て、貴兄を愛し、貴兄を敬い、貴兄以外の何も感じず、 貴兄以外の何者にも捕らわれず、貴兄以外の何も望まず、貴兄以外の何も欲さず、 貴兄の許しなくしては呼吸することもない、ただ一言、貴兄からの言葉にのみ 理由を求める、そんな惨めで情けない、貴兄にとってまるで取るに足りない 一介の下賎な奴隷になることを――ここに誓います」





伊達さんから離れると、ニヒルな笑みを作って言った。





「フ、フ。 さぁ、解体レンアイしましょうか」



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2006/8/1 UP
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