「準備はいいか!」
「Yeah――!!」
「行くぜ!ハッ!」

政宗が強く馬の腹を蹴り、馬が走りだす。





――これから戦に向けて出発です。





見積もるところ、半年くらいは見たほうがよさそうなこの長旅。
何分交通も発達してない(馬しかないし)、道は舗装されてない(山とか砂利道とか凸凹道ばっか)、 荷物が多い(食料だけでも大変なことになっている)の三重苦。

今回も人数は少なめ(といっても数百人はいる)で、私はまたもや政宗の後ろに乗っている。 別に他の馬でもいいんですけど。むしろ別の方が楽な気がする・・・。 政宗の後ろで「狭い、暑い」とぶつぶつ言っていたら、「我慢しろ」と一蹴されてしまった。
政宗のいけずめ。

今回、当初よりも他の軍の様子を見ながらの進軍になるようだ。 前田軍領と毛利軍領への繋ぎ目を、最近豊臣軍が支配しているらしく、 下手をすれば毛利・長曾我部連合軍と合戦する前にもう一戦やることになりそうだ。 でも私なんかは豊臣軍先にやっつけちゃって、 その土地で休んでから毛利・長曾我部連合軍と戦えばいいんじゃないのとか思うんだけど、 その辺はどうも難しいところらしい。

軍を三分割して私、政宗、小十郎さん、他精鋭の皆さんが先頭、 佐助が真ん中の食料などを積んでいる隊、最後の隊に子荻ちゃん、軋識がいる。 子荻ちゃんと軋識はあんなに微妙な仲だったのに、ここ1週間でそれなりに仲良くなっていた。 何でも将棋仲間になったらしい。 ・・・単純だな。主に軋識が、だけど。





今まで、絶望し失望し期待をせずに生きていたけれど、 こっちに来てからは自分が変わってしまったとしか考えられない。 正直言ってありえない。こんなに生きていることで気分がよくなるなんて。

何が私を変えたのか。

あっちでは考えられない戦闘生活か、
あっちでは考えられないお人よしどもとの生活か、
それとも――






「そういや、この前佐助と何やってた?」
「戦に備えて、ちょっとだけ特訓をね」

ちょうどその時、黒脛巾組の人がやってきて政宗に話しかけた。声を掛けられて政宗は馬を止める。
黒脛巾組の人は少し焦っているようで、そわそわしている。想定外の事態発生、かな?

「政宗様!」
「おう、どうした」
「一里ほど先の方から、豊臣軍の小隊が進行中です。数は30人ほどかと」
「・・・そうか。、任せてもいいか」
「もちろん」

政宗の後ろから飛び降り、着地する。

「どっちの方向ですか?」
「北の方向です」
「じゃあ、行ってきます」


少しだけ、嫌な予感がした。
ここ最近の夢見が微妙だったせいかもしれないけれど。
嫌な予感が当たらなければいいと、それだけを切に願った。





木から木へと飛び移ること5分。
伊達の紋とは違う紋を身に纏っている雑兵発見。

「こんにちわ」
「!?・・・何者だ!?」
「フ、フ。そうですねぇ、私は伊達軍の者ですよ」
「やはり・・・お命頂戴仕る!」

30人以上が一斉にかかってくる。・・・フェアじゃないなぁ。多勢に無勢って? まぁ、一番アンフェアなのは、私だけど、ね。 早速この技をお披露目だ。お披露目というには観客は少なすぎるけれど、仕方ない。 右手の人差し指を手裏剣の穴に入れ、回転を掛ける。左手には曲絃糸。




「目には目を。絶望には絶望を。あなた方に相応しい、死の旋律を。《憐れみの輪舞曲》」





「ぐぅっ・・・」

一人だけ殺さずに半殺し程度に留めておいて、情報を吐かせるために男の胸元を踏みつけた。

「さ、教えてください。伊達が進軍してることは、豊臣軍は知ってるんですか?」
「くっ・・・誰が教えるものか・・・っ」
「素晴らしい忠誠心ですね・・・。じゃぁ、これならどうでしょう?」

1mほどの長さしかなくて、使い道に困っていた曲絃糸。こんなところで――しかも拷問で役立つとは。 首に軽く巻きつけ、そして締め上げる。 曲絃糸は鋭いから、すぐに皮膚は破れ血が溢れ出す。

「分かった・・・!言う!言うからやめてくれっ!」
「あ、やっと言う気になってくれたんですね」
「最近わが主君の元に下った、黒衣の男が・・・3日ほど前にその情報を持ってきたのだ!」
「3日前・・・。そう、ありがとうございました」

情報を手に入れ、その男の処分に少々戸惑ったけれど、 そのままにしておいても死んでしまうだろうしひと思いに殺すことにした。



「さよなら。来世ではオシアワセニ。」



ああ、今私の瞳に感情なんてものはないんだろうな。
『仕事』の最中に感情はいらない。

けれど――



ぶわっ



森に風が吹き、木々が揺れ葉のこすれる音がした。





そのとき私には最低最悪の宿敵がこの先に待ち構えていることなど、知る由もなかったのだ。



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2007/6/17 UP
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