伊達のお城に着いた私はひとまず疲れを取るために少しだけ眠ったあと、 政宗から言伝を預かった女中さんに起こされて、政宗のところに行くことになった。 ・・・眠らせてよ。疲れてるんだからさ。


「政宗様、闇口様をお連れいたしました」
「Thank you.下がっていいぞ」
「かしこまりました」


言葉に従って去っていく女中さん。
この部屋には私のほかに、武田信玄さん(帰ってからでかいおっさんの本名を教えてもらった)、 真田幸村さん、猿飛佐助さん、片倉景綱さん、 そして我が主、伊達政宗がいて、それぞれくつろいでいた。(片倉さんだけは正座だった)

「・・・寝てたんですけど、何の用なんですか」
「Sorry,sorry.こいつらがお前の話を聞きたがってな。それに俺もちゃんとした話をしてねぇ」
「そうですか。闇口と申します。以後お見知りおきを」

一言だけ言って、私も適当に座る。

「そなたは武勇に優れているとか。わしも見てみたかったのう!」
「お館さま!闇口殿は一瞬で某の動きをお止めになったのでござる! ぜひとももう一度お手合わせ願いたい!」

いや、キラキラと子犬の目で見られても困るんですけど。
猿飛さんだけは苦々しく私のことを見ている。あれだけ虐めれば当然か。

「・・・まぁ、気が向いたらね。それと、 私は武勇に優れているわけではなく、殺人技術に優れているだけですよ、武田さん。 そういう風に育てられましたので」

すると、政宗がいやに真面目な顔をして口を開いた。

「・・・には聞きたいことがあるんだが・・・いいか?」
「何でもどうぞ」

聞かれて困ることなんて、少ししかない。

「Thank you.・・・まずは『闇口』についてだ。OK?」
「・・・はじめから説明しましょうか。政宗以外は知らないことですし」

一呼吸おいて、まずは異世界の人間であることを言う。

「異世界とな?」
「ここではない世界ですよ。もしかしたらこの世界の未来かもしれないし、そうじゃないかもしれない。 私たちの世界の過去に政宗や武田さんが存在していたのは確かですが、史実とは異なるようです。 だから、異世界」
「某は闇口殿を信じるでござる!」

・・・この世界の人って単純な人が多いのかな。 いや実際真実だから信じられても疑われてもどうしようもないんだけど。

「そして、私の一家、闇口に関してですが――闇口も零崎も、殺し名と呼ばれる裏の世界の一家です。 今で言う暗殺専門の忍のようなものでしょうね。
殺し名は上から匂宮、闇口、零崎、薄野、墓森、天吹、石凪の七つ。 私は闇口の禁忌の子であるため、ちょっと複雑な事情があります。 母は闇口の者ですが、父は零崎。
殺し名にはそれぞれ色んな呼び名があります。 闇口に関していえば、《暗殺者》。 私は零崎と闇口の異種交配なので、零崎の《殺人鬼》も該当しますね。 ああ、零崎としての名前は、零崎無織なしおり です。まぁ覚えなくてもいいですけど」


政宗は仏頂面になり、片倉さんは訳が分からないというように表情を変える。
真田さんは混乱しているようだった。頭の上にはてなマークがたくさん見える。(たとえだけど) まぁ名前いっぱい出てくるからしょうがないよね。
ちなみに猿飛さんは無表情で、武田さんは何を考えてるんだか分からない。


「闇口は、親から生まれ、殺人の仕方を教えられ、 主に仕えることが出来るように育てられ、《暗殺者》として覚醒すれば、 自分で主を決め契約し、契約を解除されるまで主のために忠誠を尽くす奴隷になります。 私以外の闇口は、主君のためならどんな行為も躊躇も限度もなく実行するでしょう。 私は闇口としても零崎としても教育を受けたので、別ですけどね」

「なるほどな」
「政宗様はこの契約を?」
「ああ」

「私は親を殺し、自分を殺し、他人を殺し、正の感情を捨て、自尊心を捨て、武器を取り、 何も考えずにただ仕方のないことと割り切り、全てを諦め自分を生きてきたただの人間です。

親からは一度たりと愛情をもらったことはありません。
私は闇口に実の妹がいますが、会ったことはありません。
零崎の家族とは1人を除き、血の繋がりはありません。
闇口を名乗っていますが闇口からは同族とは思われていません。

同情ならいりませんよ。そういう世界だった。それだけのことなんですから」



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2006/8/7 UP
2009/2/14 微修正